佐藤雅彦の40年をたどる展覧会が開催中。『新しい×(作り方+分かり方)』展で見せる創作の軌跡【Penが選んだ今月のデザイン】

  • 文:高橋美礼(デザインジャーナリスト)
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展覧会の公式図録『作り方を作る』(左右社)は6月28日より横浜美術館のミュージアムショップ「MYNATE」にて発売開始予定。佐藤雅彦自身が書き下ろし、「教育」「表現」「方法」を巡る遍歴を実際の制作物とともに物語る構成。展覧会の鑑賞とあわせて思考を導く1冊となりそうだ。MYNATEのオンラインショップでは限定特典のステッカー付きで販売される。

横浜美術館リニューアルオープン記念展として開催される本展は、1990年代以降、メディアの世界を牽引してきた佐藤雅彦の創作活動を概観する、初めての大規模個展となる。

「スコーン」、「ポリンキー」などのテレビコマーシャル、NHKテレビ番組『ピタゴラスイッチ』、『だんご3兄弟』といった数々のメガヒットから、佐藤は親しみやすいコンテンツ作家という印象を持たれるかもしれない。しかし一方、『I.Q Intelligent Qube』で新しいゲーム世界を創出し、ゲートをくぐりながら計算する『計算の庭』や、スキャンした指紋が生命体のように動きだす『指紋の池』といったインタラクティブアートで、体験者に新たな感覚や気づきを与えてきた。教育者として、慶應義塾大学、東京藝術大学大学院での研究活動から展開された作品も多い。こうした多種多様で幅広い作品群が一堂に会した本展で、独自の理論とプロセスを紐解く。

「私はつくり方をつくっているんです。つくり方が新しければ、出来たものはおのずと新しいものになります」。佐藤がそう語るように、すべての創作は、構築してきた「つくり方」によって成立しているもの。つまり、作品制作より手前にある「つくり方をつくる」という視点に独自性があり、佐藤の頭の中にストックしてある「つくり方」を方程式の要領で組み合わせたり掛け合わせたりしながら、多くの人に伝わりやすい表現へと転化させていくのだ。

松永真太郎主席学芸員は「『つくり方』の実例を通して、創作の根底にある佐藤ならではの『考え方』を垣間見る─来場した方々がそのステップをクリアしたら、次は一人ひとりが、自分ならではの考え方を考える番です」と期待を寄せる。楽しみながら主体的に、行動や思考を変化させながら、体験してみたい。

横浜美術館リニューアルオープン記念展 『佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)』

開催期間:6/28~11/3
会場:横浜美術館
開館時間:10時~18時
休館日:木曜日
料金:一般¥2,000
https://yokohama.art.museum

※この記事はPen 2025年8月号より再編集した記事です。