
KYOTOGAPHIE(京都国際写真祭)に続き、シャネルがプロデュースするインドのアーティスト・プシュパマラNの展覧会『DRESSING UP:PUSHPAMALA N』が8月17日まで銀座シャネル・ネクサス・ホールで開催中だ。
現実と虚構を織り交ぜた濃密な写真世界
インドのバンガロール(現ベンガルール)を拠点に活動するプシュパマラN。1990年代半ばから自らを被写体としてさまざまな役柄に扮し、多義的で示唆に富んだ物語をつくり上げるフォト・パフォーマンスやステージド・フォトの制作を続けている。国際的に高い評価を受けている彼女の日本初となる個展について、本人のコメントともに紹介する。
今回の展覧会は3つの部屋から構成されている。最初の部屋に展示された『ファントムレディ あるいはキスメット』はプシュパマラが初めてフォト・パフォーマンスという表現手法に取り組んだシリーズだ。「モノクロ写真で構成された本シリーズは、フィルム・ノワール時代の映画的描写をパロディ化した冒険譚です。すべてボンベイの街で撮影しました。怪傑ゾロのようなコスチュームを着て双子の妹を探すという設定です。友人のフォトグラファーと誰もいない駅で撮影したり、労働者階級の人々が利用した歴史あるカフェ、ホームレスが映り込んでいる早朝のビジネス街で撮影したりと、これらの作品にはフィクションと現実が重なり合って映り込んでいます。テキストは付けてないので、皆さんが物語を想像して楽しんでいただければと思います」

続く『帰ってきたファントムレディ』は、前作の続編で、現代のムンバイを舞台に殺人、陰謀、不正の渦を解き明かすミステリー小説のようなシリーズだ。「この作品ではファントムレディが孤児となった少女を救出するというストーリーをつくりました。お馴染みの世界観やキャラクターで構成することにより、現代映画で繰り返されるインド社会の描写についての考察を促すと同時に、かつて冒険の舞台となったムンバイの街並みが失われつつあることについても言及しています」

最後の空間には9つのモノクロのポートレート『ナヴァラサ スイート』が並ぶ。ナヴァラサ スイートとは、インド美学における9つの感情、つまり恋情、驚き、ユーモア、恐怖、嫌悪、悲しみ、怒り、勇敢、静寂を指す。この作品群は、1950〜60年代のインド映画黄金時代に活躍した著名な俳優・写真家であるJ.H.タッカーのスタジオで、3年かけて制作された。「私は写真の歴史を語り直すことに関心があります。現在、写真の歴史はドキュメンタリーやアーティスティックな作品の言及にとどまっており、映画の宣伝写真やスナップ写真は取るに足らないものとされてきました。私はそういった写真も含めて写真史として捉えたいと思ったのです」。これらの撮影手法は大判のフィルムを用いたハリウッドグラマースタイルと呼ばれるものだ。入念にライティングやメイクを準備し、1カットに何時間もかけて撮影したという。

歴史的なイメージを再現しながら、それを解体する試みを行うプシュパマラの作品を前に、私たちは彼女の物語に誘われながら、自らの物語を振り返る体験をするだろう。
『DRESSING UP: PUSHPAMALA N』
開催期間:開催中〜2025年8月17日(日)
開催場所:シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
開館時間:11時〜19時 ※7/10(木)、7/24(木)は17時閉館
会期中無休
入場料無料
nexushall.chanel.com