ホセ・パルラ、日本初の個展を2会場で同時開催。日本ゆかりの作品も多数展示

  • 文:久保寺潤子
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日本で過ごした経験を反映した作品が2つの会場で展示されている。

アメリカを拠点に国際的に活躍するアーティスト、ホセ・パルラの初個展『Home Away from Home』が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスとKOTARO NUKUGA六本木にて同時開催中だ。日本とも関わりの深いパルラの足跡を辿る展覧会だ。

都市の壁のように絵の具を塗り重ねていく。

巨大なキャンバスに何層にも塗り重ねられた絵の具、その上に縦横無尽に描かれた独自のカリグラフィが踊るーーホセ・パルラの作品は、人類がまだ文字を持たなかった時代の壁画を想起させるようなエネルギーのほとばしりを感じさせる。

キューバ系の両親のもとマイアミに生まれ、多様な移民文化の中で育ったパルラ。1970〜80年代のニューヨークの路上や地下鉄車両を舞台に発展したグラフィティ文化に影響を受けながら、独自のカリグラフィを発展させた。

「ひとつの作品を完成させるのには4〜5カ月かかります。絵の具を重ねていくプロセスは、まるで月日を積み重ねていくような感覚です。そこには都市の壁のように時間の質感が蓄積されていく。1枚の絵の中にはたくさんの記憶が埋め込まれているんです」とパルラは自身の作品について語る。

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ポーラ ミュージアム アネックスでは、旅や都市との出合い、コラボレーション、記憶、感情といった多面的な要素を表現した約20点が展示。

固められた絵の具の破片や、荒々しく削り取った絵の具の質感が混在する『Surroundings』(2018)は、まさに年月を経た都市の壁を思わせる。「消えかけた部分や削られた跡には、そこになにがあったのか、誰がいたのか、どれだけの時間が経ったのかといった物語が浮かび上がります。この作品は、作業中に立ち現れる絵に反応しながら絵の具に導かれるように描きました」

日本をもうひとつのホームだと公言するパルラは、2000年頃以降何度も日本を訪れ、日本のアーティストや文化人、デザイナーとの交流を深めながら影響を受けてきた。会場の一つであるポーラ ミュージアム アネックスでは備前の窯元で製作した作品や、日本の漢字にインスパイアされた作品も展示されている。「2003年にプエルトリコで制作した『Accident & History』は日本的な感性を持った作品だと思います。筆致はとてもシンプルで、一筆だけで構成されています」

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日本特有の風土、気候、文化、芸術との対話から生まれた作品も多い。

2021年、パルラは新型コロナウィルスに感染し、4カ月にもおよぶ昏睡状態から回復するという経験をした。『Movement of Reflective Light』(2024)は、奇跡の生還を経て生まれた作品であり、彼の作品の転換点になった。「回復の過程では、体内に光が差し込み、癒されていくイメージをずっと思い描いていました。この作品ではカリグラフィの表現は言語を超えて、体内の静脈や動脈のように身体感覚と深く結びついたものへと進化しました」。この作品を通じてパルラは人間の身体を構成する骨や筋肉、血管すべてを描き出すことで、癒しの絵画として昇華させたという。

1歳から10歳までをプエルトリコで過ごしたパルラ。両親は故郷のキューバに長らく入国が叶わなかったが、パレラが20歳の時に渡航が解禁され、以来度々訪れている。11年には友人のアーティストJRとハバナ・ビエンナーレにも参加した。そしてアメリカでは奴隷制度や先住民問題をはじめとする多くの抗議運動が続いている。『Grand Historic Correction』(2020)について「私はいつも、怒りやネガティブな感情をポジティブなものに変換しようとしています。怒りを中和し、愛として放つ。作品は私の抗議であり、私の戦いなのです」と語る。

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KOTARO NUKUGA六本木では、日本で過ごした時間や出会いから着想を得た新作絵画10点を発表。これらの新作についてパルラは「友人たちへのオマージュであり、芸術の旅を豊かにしてくれた瞬間である」と語っている。

初めて日本を訪れた時、島の空気、風、海辺に特別なエネルギーを感じたというパルラ。東京の路地を吹き抜ける風をキャンバスに描き、言語を超えた新たな言葉を紡ぎ出すその作品によって、新たな対話が生まれることだろう。

ホセ・パルラ『Home Away from Home』

開催期間:開催中〜2025年7月27日(日)
開催場所:ポーラ ミュージアム アネックス
東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3F
開館時間:11時〜19時 ※入場は18時30分まで
無休 
入場料:無料

 

開催期間:開催中〜2025年8月9日(土)
開催場所:KOTARO NUKUGA ROPPONGI
東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
開館時間:11時〜18時
休館日:日、月、祝 
https://kotaronukaga.com/exhibition/home-away-from-home