世界初となる河川水浄化型の浮遊プール「+Pool」の建設が、ニューヨーク市のイーストリバーで始まった。その独特の形状は、公共のプールにありがちだった課題を解決するという。河面にぷかりと浮かぶ姿がユニークだ。
プラスの形状に秘められた機能性
+Poolはその名の通り、プラス記号(+)を模したオリジナリティあふれる形状だ。+Pool公式サイトによると、4つの機能別プールを中央で連結した造りとなっている。子供用プール、スポーツプール、トレーニング用のラッププール、そして寛ぎのラウンジプールが備わる。
従来の一般的な公共のプールでは、速く泳ぎたい利用者やマイペースで楽しみたい人々が混ざり合い、レーンが混雑してしまうことも少なくなかった。+Poolでは利用目的に応じて好みのプールを選べるため、互いにストレスなく利用可能となる。
イベントによっては2つのプールを直線状に組み合わせ、オリンピック公式サイズのプールにすることも可能となっている。4つのプールの区切りを取り払えば、約836平方メートルの巨大な遊泳エリアとして運用可能であり、柔軟な運用を実現する設計意図がある。
かつてNYには15カ所の浮遊式プールがあった
プールはバージ(浮舟)の形で製作され、イーストリバーに係留される。イーストリバーで直接泳ぐことは衛生環境上難しいが、河面に巨大なプールを浮かべ、自然の河川との一体感を楽しめる趣向だ。
河川にプールを浮かべるという発想は斬新にも感じられるが、意外にも新しいものではないという。1900年代のニューヨークは、浮遊式プールの黄金期だった。ニューヨーク市公園局によると、ハドソン川とイースト川に8つの箱形の浮体が設けられ、それらの上で計15カ所の無料の公営プールが開設されていた。米旅行誌のコンデナスト・トラベラー誌は、ニューヨーク市民の約40%がこうしたプールを利用していたと紹介している。
しかし、1920年代までに市の河川の環境悪化が進むと、河川から直接水を引いていたこれらの公共プールは閉鎖に追い込まれた。その後数十年間、公共プールへの投資は減少し、民間施設がその代わりを担っていった。
+Poolプロジェクトには、誰もが再びプールを楽しめる環境を取り戻し、その象徴としてかつての浮遊式プールを再生するねらいがある。+Pool公式サイトによると、2017年には「川で泳ごう」キャンペーンのもと、1万筆を超える署名が集まった。2019年にはニューヨーク市経済開発公社が浮遊プールの開発事業者の募集を発表するに至っている。
そして昨年1月になると、ニューヨーク州保健局が河川プール施設の許可に関する基本指針を発表。同年8月にはピア35が+Poolの設置場所として正式発表されている。市民の声が行政を動かし、ついに規制をクリアする道筋がついた。プロジェクトは2024年、州と市から計1600万ドル(約23億円)の資金調達を受けている。
先進のフィルターで河川の水を安全に利用
かつての浮遊式プールと同様、+Poolも河川の水を利用する。ただし、より先進的な浄化装置を備え、衛生面に配慮する。
米建築・技術サイトのニューアトラスによると、+Poolは自己フィルタリング技術を備え、「化学物質や添加物なし」でイースト川の水から細菌や毒素などの有害物質を除去するという。詳細な仕組みは現段階で正式に発表されていないものの、設計図では、UVライト、微生物を濾し取るメンブレンフィルター、そしてその他の濾過器が確認できる。
プールを収容するバージは、現在までにミシシッピ州のボリンジャー造船所で製作が完了している。ミシシッピ州パスカグーラからフロリダ湾、ビスケーン湾を通り、アメリカ東部大西洋沿岸に沿って、約3週間の長い航海に出る。ニューヨーク市内の造船所に到着後、改装を加えてから6月中にニューヨーク市のピア35まで輸送される段取りとなっている。
最終的には約836平方メートルのプールを設ける計画だが、まずは初期版として、約186平方メートルサイズのプールをオープンする。技術の実証実験として、遊泳や濾過機能に問題ないことを確認する予定だ。
かつてニューヨーカーたちを夢中にした浮遊式プールが、およそ1世紀の時を経てイーストリバーに再来する。スケジュールは都度変更されているが、現段階では2026年5月以降に一般共用開始となる計画だ。