絵本で話題のイラストレーター・みなはむ、夢の島熱帯植物館で初の大規模個展を開催。 見るものに忘れたなにかを思い出させる世界を体感せよ!

  • 文:Pen編集部
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みなはむ●1995年、東京都生まれ。武蔵野美術大学日本画学科卒業。大学在学中から「COMITIA」で同人誌を制作・発表をしたり、絵画の展示などの活動を続けている。主に自然や日常の中に少年少女が佇む絵をデジタル・アナログ問わず描いており、主な仕事に、『よるにおばけと』『はるってなんか』(ともにミシマ社)画集『風の中 みなはむ作品集』 (パイ インターナショナル)等多数。画像は本展示会のポスターにもなっている『植物館のある生活』。 ©2025 Minahamu

『はるってなんか』『よるにおばけと』など絵本で話題を呼び、Instagramを中心に海外でも話題のイラストレーターみなはむによる絵画展『植物館のある生活』が、7月6日まで夢の島熱帯植物館(ゆめねつ)にて開かれている。みなはむは、これまで多くの温かさと冷たさが調和した、見るものになにかを思い出させるような作品を描き、評価されてきた。その独自の世界観はどのように構築されているのか? 今回は個展開催に伴い、みなはむにインタビューを敢行。その世界観はどのように築かれるのかを語ってもらった。

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一枚絵で物語を生み出す、みなはむとは?

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大温室にあったダイオウヤシが切られ、前庭広場にて展示されているところを絵にした。『クローバーと』 ©2025 Minahamu

みなはむの絵のテーマは、日常の一瞬を切り取ったものが多い。それは、世界で最も美しい瞬間のようにファンタジックな構図で描かれ、そこに描かれた人・物・自然に至るすべてがひとつの物語を語るかのような力を持っている。このスタイルは、大学時代に完成されたという。

「大学時代から、同人誌等で作品を発表していましたが、個展を始めたのは2017年の大学4年の頃です。大学では、日本画科で学んでいたのですが、途中でアクリル画に変更しました。自分の絵は様々な作家やサブカル系の影響を受けていて、子どもの時からマンガの模写をしていましたね。日本画・西洋画問わず、いいなと思うものは取り入れていて、画面の中での色彩などはエドワード・ホッパーやアンリ・マティスなどから影響を受けています」

彼女の描く人物はいわゆる「マンガ調」とも言える造形だ。しかし、光と影との境目が曖昧な画風が、背景とキャラクターを一体化させ、そこから逸脱した独自の作風を醸し出す。こうした手法は、一律に光が当たる平面的な描写が主流の日本画らしい表現だ。一方、エドワード・ホッパーやアンリ・マティスなど、20世紀初頭の西洋画のような、シンプルながら奥行きを感じさせる構成と色彩が見受けられる。こうした東西の作品から影響を受けた画風が、日本の風景ながら日本ではない、海外の絵本のような魅力を生み出している。

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ゆめねつの象徴でもある「大温室のAドーム」にある滝。みなはむの作品は、こうした男子同士の関係性を描く事が多い。『滝1』©2024 Minahamu

みなはむの絵の中に登場するのは、思春期の子どもたちが中心だ。そして、男子2人の関係性を描くような作品が多い。

「大学2、3年ころまでは、既存の作品を元に描く“ファンアート”を描いていたのですが、オリジナルを描きたいと思った時、オリジナルで描くべき人物って誰だろう?と考えました。当時は学生なので、老人の気持ちはわからない。だから自己投影できるキャラとして、誰もが経験した子どもを描くことにしたんです。また、自分は孤独だなと感じる事があったため、自分以外の他者と心からつながっている人を描きたいと思いました。それで、色々描いていて一番しっくりきたのが、男性同士でした。自分にとって最も遠い存在だからか、興味を持っていたんでしょうね」

登場人物たちは、見る人が自己投影ができるよう、あえて特徴的に描かれていない。そのため、どこか冷めたような客観的な目線で人物は描かれるが、豊かな色彩が見る者を温かく包み込む。この見事な調和が、みなはむの絵の希有な表現力となっている。彼女の絵を見た人の多くは、一種の“なつかしさ”を感じるという。それは、彼女の作品を見る人が、かつての自分を冷めた目で見つつも、絵のような温かい記憶として思い出すからかもしれない。

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『滝1』の滝を中から見た様子。みなはむの作品には、水と草花が背景として描かれることが多い。『滝2』©2024 Minahamu

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みなはむが見た、ゆめねつの魅力

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今回の展示作品で、みなはむが最もお気に入りと語った作品。顔が見えない絵の方が自己投影しやすく、窓の向こうになにかがあるというシチュエーションが好きだという。描かれているスポットは館内のカフェである「夢の島カフェ」。『窓』 ©2024 Minahamu

ゆめねつ(夢の島熱帯植物館)では、2024年にも『ゆめねつ×みなはむ ポップアップ展』が開かれている。今回はその規模を拡大した形というわけだ。

「元々ゆめねつさんの方で、アーティストとのコラボの企画が立ち上がっている中、偶然私の名前が上がって、お声がけいただいたと伺っています。私にとって植物園は、小学生の時から地元の植物園に遊びに通っていたので、ちょっと特別な場所という感覚がありました。そのため、お声がけいただいたことは大変ありがたいと感じております」

本展では、前回の9点のキャンバス作品に加えて、さらに約13点の新作ドローイングを追加した構成だ。2024年の展示では、ゆめねつの職員による「ゆめねつといえばここ」という場所を選んで描かれているが、今回はみなはむがセレクトした場所が中心。本人が実際に赴いて心に残った場所をメモし、それを元に下絵を作成しており、その時のラフノートも展示されている。

館内のショップにて、コラボレーション記念のオリジナルグッズの販売も行っており、みなはむの過去作や本展示に合わせて制作した『ゆめねつ×みなはむ×作品集』の冊子も発売している。

天気や季節で景色が変わる夢の島熱帯植物館。一人の作家が切り取ったその世界の色を、ぜひその目で確かめてほしい。

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一階にある企画展示室の展示風景。展覧会自体は無料だが。入館料(250円)が必要。

みなはむ個展『植物館のある生活』

開催期間:開催中~ 2025年7月6日(日)
開催場所:夢の島熱帯植物館 企画展示室 
東京都江東区夢の島2-1-2
開館時間 :9時30分~17時 ※入館は16時まで
休館日:月
入館料:¥250
www.yumenoshima.jp