『LOVE ファッション』展で「間近に見て大正解!」だった7作品

  • 写真・文:一史
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皆さん、ご覧になりましたか!
ファッション展覧会『LOVE ファッション 私を着がえるとき』。
東京・初台オペラシティ アートギャラリーで開催中です。
なおこのギャラリーは日本を代表するファッション学校「文化服装学院」から徒歩15分の距離にあります。
すみません、我が愛する母校なもので余談でした。

展覧会よかったですよね〜、満足まんぞく。
ん?皆さんはそうでもない !?

かわいいタイトルだけど展示服はアート?
服の体数がちょっと少なめ?
ファッション史の文脈がよくわからない?
コム デ ギャルソン推しすぎる?(好きな人にはたまらない)

そんな声も聞かれそうではありますが、確かにファッション(というかモード)が発表するコレクションの知識や実体験がある程度ない方だと没入しにくいかもしれません。
ただ一方でアパレル関係者、モードリサーチャーが見に行くなら、近代ファッションを改めて俯瞰できすごく楽しめると思います。
つい最近のデザインまで扱っているから古臭い印象がありません。
現在進行系を伝えようとする優れたキュレーション。

展示品の中心は、京都服飾文化研究財団(KCI)の所蔵品です。
「世界中の研究機関や美術館が作品を買い上げてくれるから、ブランドがやり過ぎインパクトの服をショー発表しても収益になるのだな」
そんなことも感じた展覧会でした。

ここに紹介する7体の服は、文筆や撮影でファッションに関わるわたしが特に心惹かれたもの。
読み取る楽しさと、発見があった服です。
作品スナップだけでも眺めていってくださいませ。

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ヨシオクボの透けるオーラ

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うお、キタぁ!
ドメブラのヨシオクボです。
もはやSFやゲームの世界ですよね。
動物のオーラをまとった人間たち。
今回の展覧会でもっとも嬉しい出会いだった作品です。

というのも、この服が発表された2023年春夏のファッションショーを客席で観ていたからです。
なんとモデルが着てランウェイを歩いたのです!
厳密には歩いたというより、走ったという印象。
風と空気をはらんで揺れ動きながらステージに強いインパクトを残しました。

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さらにショーで「最高!」と思った大きな理由のひとつが、透けるシアー素材で作られていたこと。
実は23年春夏はシアー素材がメンズシーンで最重要なトレンド素材でした。
女性的とされてきた透け素材を男性に着てもらう提案を、デザイナーズのみならずセレクトショップも積極的に行っていて。
DEIやジェンダーレスへの概念的アプローチというより、ひどい暑さが続く夏の気候に涼しい素材が適している実用性も兼ねた提案でした。
男性が少し別の方向に装いの歩みを進めれば、社会生活が楽になります。

とはいえ女性の姿になる服を着たいと願う男性は限られます。
こうした社会通念に切り込んだのがヨシオクボ。
この服、ホントにめちゃくちゃカッコいいのです!
子どもが見たらよりそう感じるでしょう。
ロボットやゲーム好きの男の子を夢中にさせそう。

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定番服がワードローブの中心な一般男性に新しい服を着てもらうには、彼らの趣味に寄り添うデザインが欠かせません。
シアー素材ならアメリカンな紺ブレザーをしっかりと仕立て、シルエットもクラシックにするとか。
ヨーロッパのモードに多いフェミニンなアプローチでは、もとからそれが好きな人たちの心にしか響きにくい気がします。

音楽家デヴィッド・ボウイの1970年代のアンドロジナス(両性具有)スタイルをはじめ、女性と男性の垣根を超えた人物の姿を半世紀もの時間を掛けて大衆が目にしてきました。
でも社会における男性服の規範は現在に至るまで大きく変化していないようです。
今回のヨシオクボのような男ゴコロをくすぐりつつ次の社会を目指すデザインがもっと出てきたら、世の中が少し住みやすくなるかもしれません。
「シアー素材ってカッコいい」とモノの見方が変わったら。

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『葬送のフリーレン』の大魔法使いゼーリエのようだ!
(わかる人にしかわからない例えやめろ……)
モチーフが獅子舞ですから髪を生やしたのでしょうけど。

間近にディテールを見られて嬉しかったですね。
ワイヤーを仕込んで形を出しているようです。
これほど丁寧な仕立てとは。

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デムナ・ヴァザリアのバレンシアガ

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ぐう……と唸らされたバレンシアガ。
2022年秋冬オートクチュール(高級注文服)です。
これもファンタジー、SF、ホラー映画から抜け出てきたような作品。
でもカンペキな美しさ。

そしてさらに素晴らしく思ったのが、素材がネオプレンなこと。
そうです、ウェットスーツの素材です!
つまり海からザバッと上がって砂浜に歩き出してもおかしくない(いやヘンか!?)スタイルということ。
着てちゃんと動けるんですね。
オートクチュールだから購入した人の身体を採寸して、一点モノで仕立てられる服です。

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バレンシアガといえば大きなロゴ入りTシャツや派手なスニーカーの印象を抱く人が多いかと思います。
これほど街中で目にしてしまうと、わたしも同じ感覚です。
ただ現在のブランド力を築き上げたのは、こうしたアートな試みがあってこそ。
まず先鋭的な人々の気持ちを掴み、このブランドが好きという空気が大衆に流れていく。
モードビジネスの真髄ですね。

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ディレクターのデムナ・ヴァザリアは今年にバレンシアガを離れ、グッチに移籍しました。
新生グッチの動向にモード界が注目しています。

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展示のキュレーションがまたよかったんですよ!
色が統一され、ほかがすべて布のなかで工業資材のバレンシアガがひときわ目立ってました。
ここが「ハイテク服コーナー」だったなら、さすがのバレンシアガでも目が流れてしまったかもしれません。

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クリスチャン・ディオールの1951年

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服飾オタクはクラシックを間近に見られるのが、ファッション展覧会の大きな楽しみだったりします。
現在の社会とは噛み合わなくても、過去に理想とされた人物像、職人の手業を目にして研究者の気分に浸れます。

このイヴニングドレスはブランド創設者のクリスチャン・ディオール自身による1951年製。
素材はすべてシルクです。
上半身をコンパクトにまとめ、腰位置を高くしてヒップを持ち上げたザ・クラシックな女性像。
バストを強調しない点は、当時のモダンさだったのかもしれません。

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実はこの服に惹かれたのは、スカート部分のプリーツのエッジにあります。
重なった最上段のエッジが、少しガタついてませんか!?
布を重ねてからハサミでカーブを描くようにカットしたのでしょう。
ひょっとしたらファッションショー直前に完成度が気に食わなかったディオールが自らハサミでちょん切ったのかも??
そんな想像もできてしまう奥深い服です。

人が手仕事で仕立てていることが伝わる魅力的なドレスでした。
細部がきっちり整っていることがいい服の条件ではないんですね。

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「なぜこうなった?」の読み解きが楽しい貴族服

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最後にお届けするのは、18世紀から19世紀初頭のフランスの貴族服。
こうしたクラシックも会場には幾つか展示されていました。

「古すぎて興味ない」ですって!?
いえいえ、ここから読み取っていくのが楽しいんですよ。
左の男性服を見ていきましょう。

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この手の服の説明って「スーツの原型である」「刺繍で飾られている」「貴族の標準だった」といった現象が述べられるだけが多くないですか?
わたしが気になるのは「なぜこうなった?」です。
職人の手刺繍は贅を凝らした富の象徴ですから発想の流れがわかりやすく、そこは別にどうでもいいです(どうでもよくもないですが)。

それより、
・肩幅の狭さ
・襟の極端な高さ
・胸幅を強調するマッチョさとは真逆の、スリムシルエット
・ネクタイの原型のスカーフと袖のフリル
・半ズボン

が気になります。
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すべては肉体労働と無縁な人間であることを示す考えが前提かと推察されます。
(この時代の衣服をちゃんと調べたことがなく憶測になります)
筋肉質でない丸い肩のシルエット。
ただ脇下のアームホールが狭いのは、意外と実用的です。
ダボついた服より腕を動かしやすく、現代のスポーツウェアがピタッとタイトなのは空気抵抗対策だけではありません。

襟が高いのは、エレガンスの表現のためでしょう。
トレンチコートの襟を立てるのと同じです。
袖のフリルは、労働者でないことを示したディテールかと。
洗濯、料理、農作業などには邪魔でしかありませんから。

ただ、どうしてもわからないのが半ズボンです。
寒いじゃん w
ロングソックスを穿くにしても。
長時間を食事に費やした部屋で椅子に座るには半ズボンのほうが楽だから?
長ズボンで生じる膝裏のシワがイヤだったのか?
きらびやかなシューズを見せびらかすため?
舗装されていない泥道を歩いたとき、ズボンを汚さないから?
当時の社会事情に詳しい方、ご教示くださいませ。

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男性服と比べ女性服は狙いがわかりやすいです。
デコルテと胸元をセクシーに露出させ、コルセットで腰を強く締め上げ(最悪の着心地)、上半身をコンパクトにしつつメリハリボディに。
男性優位社会で女性に求められた服装。

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100年を越える昔にこれほど薄い生地が織られ刺繍がびっちりと施されていたとは、一着に要した人的資源がどれほどのものだったのでしょう。
同系色の刺繍は現代の感覚では「なんか地味」と感じますが、電気照明がない薄暗い当時の室内ではわずかな光で陰影が生まれ美しかったかもしれません。

それではホントに最後にもう一点、男性用のウエストコート(ベスト)を。

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いや〜これも読み取れなかったんですよ。
なぜ左右非対称なのか。
なぜ現代のモードデザインのように、わざと歪ませたようなパターンなのか。
片側のポケットの半身が覆われてますからね。

日本の着物なら帯締め固定だから前で交差させる仕組みが理に適っているものの、このボタン留めウエストコートは交差させる必要なし。
当時の貴族は人前でジャケットを脱がないのがマナーとして、ジャケットからチラリと覗かせるウエストコートを斜めにして違和感を抱かせる、見た目最優先のデザインだったのでしょうか?

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さあここで、「展覧会を見に行ってみるか!」と決意なさった方に残念なお知らせが。
6月22日(日)で会期終了なのです。
もとは2024年に京都で開催された展覧会の東京展ですから、すでにご覧になった人も多いかもしれません。
まだの人は土日の予定をちょっと動かしていただいて、新宿駅から京王新線で駅ひとつの初台駅直結のギャラリーに足を運んでくださいませ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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