SOMBRA by @MVRDV is a kinetic pavilion in Venice that shades without motors or electronics. https://t.co/O2NrjNMtb2#PassiveDesign #MaterialInnovation #KineticArchitecture pic.twitter.com/qqX23yfltu
— Archello (@Archello) May 11, 2025
イタリア・ヴェネチアで開催中の国際建築展『Time Space Existence』に、太陽光に反応して自動的に開閉するパビリオンが登場した。オランダの建築集団MVRDVが手掛けたこの「SOMBRA(ソンブラ)」は、電子機器やモーターを一切使わずに物理的な原理のみで動作し、太陽光の状態に応じて快適な日陰を実現する。気候変動が注目される昨今において、建築の新たな可能性を模索する意欲作だ。
200以上の言語で刻まれた「太陽と日陰」
まるで空から降ってきた巨大な指輪のような構造物が、訪れる人々の目を引いている。太陽の軌道を形にしたという優美な曲線、そして足元に広がる神秘的な図形。MVRDVが設計したパビリオン「SOMBRA」だ。
作品の特徴は、夏至から冬至までの太陽の軌道をモチーフにしたという、6本の金属製リブ。地面に対して斜めに走るこれらの基軸が、独特な形状を生み出している。リングを支える円形の床板には、一年を通じて太陽が空を移動する軌跡を示す「極座標太陽軌道図」が刻まれており、この建築の設計思想を視覚的に表現している。
建築専門サイトのアーキ・デイリーは、太陽の角度を観測するために建築業界で使用される「ヘリオドン装置」に着想を得た作品だと紹介している。設計段階で建物への太陽光の影響を検討するため、太陽光が差し込む強度や角度をシミュレートする装置だ。
アーチの内側には「Sun and shadow」という言葉が200以上の言語で刻まれている。イタリア語の「Sole e ombra」のすぐ隣には、日本語の「太陽と陰」も記されている。 パラメトリック・アーキテクチャー誌は、「太陽の力と、そしてそこから身を守る必要性が、世界共通の体験であることを詩的に思い起こさせる」と評価。人類に共通する太陽との関わりを、建築言語で表現した試みだ。
空気の膨張で動く「生きた建築」
ビジュアル面で美しさとインパクトを兼ね備えた本作だが、その機能性と動作原理も注目を集めている。太陽が照りつけると、三角形のパネルがゆっくりと閉じ始め、パビリオン内部に日陰を生み出す。反対に雲が太陽を隠すと、まるで深呼吸するようにパネルが開き、青空を望むことができる。動作には電源もモーターも一切使わない。
この仕組みを可能にしたのは、エアシェード(Airshade)と呼ばれる技術だ。MVRDVによると、構造のアーチ部分に空気の詰まった小さな缶が仕込まれており、太陽光で加熱されると内部の圧力が上昇。これにより、構造体とパネルをつなぐ小型のエアバッグに空気が送り込まれ、各パネルは閉じる方向へと動き始める。
ヒンジは通常、バネの力で解放されているが、エアバッグが膨張するとまるで筋肉のようにバネを押し返し、パネルを閉じる仕組みだ。ソフトロボティクスの原理を建築に応用した。曇天となり空気圧が低下すれば、バネによってパネルは再び自動的に開く。
パラメトリック・アーキテクチャー誌は、「まるで生きた有機体のよう」だと表現する。確かに、太陽が空を移動するにつれて姿形を変え、曇りの時間帯には呼吸をするかのように再びパネルを開く様子は、建築物というより生き物に近い印象を生む。また、自然の物理法則だけで動作し、エネルギーを消費しない点も高く評価されている。
環境と共生する建築の実験場として
パビリオンが出展中のTime Space Existence展は、建築の実験的な取り組みを扱う国際イベントとして知られる。ヨーロッパ文化センターのマリナレッサ庭園で、今年5月10日から晩秋まで開催中だ。
数多くの出展作品の中でも、SOMBRAは特に注目を集めている。MVRDVのパートナー、ベルトラン・シッパン氏は、「気候変動の危機が加速する中、環境とより調和した新しい建築が求められている」と語る。「SOMBRAは、植物と同じように環境を感知し、反応する建築という哲学への、一つのアプローチを示している」という。
展示終了後、パビリオンを他の場所に移設する計画も目下進行中だ。電子機器や電力を使わずに、光と熱、そして換気を動的に制御し、運用時の炭素排出をゼロにするこの実験。持続可能な建築の未来を探る重要な一歩となるかもしれない。