ジグザグに連なる白いリゾート。アルバニアの海岸に“地形と共生する建築”が誕生へ

  • 文:青葉やまと
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ギリシャとの国境付近、アルバニアのヒマレ海岸に、地形に沿ってジグザグに配置された革新的なリゾートが誕生する。JAジュベール・アーキテクチャーとUNSアーキテクツが設計するジグザグリゾートは、建築と自然の新たな関係を提案している。

「建築は土地を支配すべきではない」との設計哲学

青々と木々が茂る美しい沿岸の丘陵地に、純白の建造物が伸びる。アルバニアに計画中の「ジグザグ」リゾートホテルだ。いくつもの棟が角度をつけて配置され、斜面にユニークな景観を生み出している。

建築専門サイトのアーキタイザーによると、ジグザグリゾートは特徴的な蛇腹状のレイアウトを通じ、自然地形の調和を意図している。5つ星のリゾートホテルとして計画中であり、訪れたゲストはおのおのの部屋から息をのむような海辺の絶景を、ほかの棟に遮られることなく楽しめるよう設計されている。

現地の景観にマッチしない、高層ホテルのような外観を避ける。設計コンセプトを示すスケッチからは、そんな意向を汲み取ることができる。高層ホテルを数階ごとに分割し、それぞれのブロックを丘陵の斜面に沿ってジグザグに配置することで、この特徴的なデザインが生まれた。各棟からは異なる方向のオーシャンビューを楽しめるほか、視覚的に周囲との連続性に配慮した仕様となっている。

地域の職人技と現代技術の融合

ウェブメディアのデザインブームは、JAジュベール・アーキテクチャーの創設者であるマーク・ジュベール氏の言葉を取りあげている。その設計哲学は、「建築は土地を支配すべきではない。土地に応じるべきである」とのフレーズに代表されるという。この理念に基づき、地形の大幅な改変を抑えながら、サイト全体の眺望を維持する建築手法を採用した。

リゾートは地元の職人が持つ技術を最大限に生かしながら、モダンで高級感あふれる建築を表現する。建設には「石の町」として知られる地元ベラト産の石材が使用され、この石材は耐久性に定評がある。

持続可能性への配慮も設計の要だ。空気の対流による自然換気など電力を使わない冷却方式を採用するほか、太陽光の自然のエネルギーを効率よく活用できるよう計算して建設の方位を決定している。環境に優しいだけでなく、ホテル全体としてエネルギー消費を抑えることが可能だ。

こうした取り組みについてアーキタイザーは、生態学的感受性をデザインに統合した建築だと評価している。土地の破壊を最小限に留めるほか、雨水の管理システムや屋内外の建築の連続性など、環境への配慮が設計全体に反映されている点が評価された。

秘境のリゾートに新たな魅力

現地ヒマレは、イオニア海の紺碧の海とケラウニア山脈に挟まれた美しいビーチの町だ。旅行情報サイトのザ・トラベル・フォークは、「アルバニアの最も知られざる秘境の一つ」と紹介している。現地を訪れれば、3500年以上の歴史を持つヒマレ城や、まるでガラスのように透明な海原が広がる。

そこに今回、ジグザグリゾートという新たな魅力が加わる。沿岸の特性を生かし、多くの棟の屋上部分にプールが備わるほか、最下層には海とそのまま繋がっているかのような視覚的効果が感じられるインフィニティプールが設けられる。海岸線までは、ホテルから延びるプライベートアクセスで容易に移動可能だ。ステイ中に、自然環境を満喫できることが、設計コンセプトの中心に据えられている。

高低差の大きな立地だが、移動手段も抜かりない。敷地内各所に配置されたテラス、庭園、プールへは、歩行者用の小径だけでなく、ケーブルカーを用意している。

プロジェクトは3万平方メートルの敷地に展開され、ホテル、庭園、各種アメニティを含む総合リゾートとして誕生する予定だ。現在は設計段階にあり、建築と自然の新たな関係性を提案するプロジェクトとして、2027年の完成を目指している。