今月で終わりです!アンゼルム・キーファー展覧会/京都・二条城の会場スナップ(と少しレビュー)

  • 写真・文:一史
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まだ観に行っていない人の見どころガイドに。
すでに行かれた方の記憶の再確認に。
「仕事が忙しくて無理だぞー」という人や、「そもそも行く気ないけどなー」って人の仮想体験に。
ここに掲載する京都・二条城での美術展覧会「アンゼルム・キーファー:ソラリス」の会場記録をお役立てください。

東京から足を運んだ理由は、現代美術界の大物による世界遺産での大規模な空間表現に惹かれたからです。
「ヨーロッパの美意識 meets ニッポンの美意識」に興味津々で。
「これ見逃すとマズい気がする!」と京都に向かいました。

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博物展のような美術展でした。
朽ちていく世界、時を止めた世界、不安に満ちた世界。
キーファー氏は、第二次世界大戦中の混乱したドイツで生まれた美術家。
実家が襲撃され、幼少期は瓦礫と共に生活していたようです。
その作風は歴史や神話を主題にしているとよく解説されます。
今回の作品群も、戦争と社会が主なテーマという印象でした。

作品を観た瞬間に「そうか!」と理解できるキャッチーなわかりやすさはありません。
作家の制作意図を重んじる人には「アートを解せない鑑賞者」と蔑まれるかもしれませんが、わたしがもっとも大切にするのは、作品に接した自分の感情と思考の流れ。
それゆえに、読み取ろう、解読しようと努力せずに会場を巡りました。
モチーフが意味するものをあとで知った作品も多々あり。
曖昧模糊としたまま歩き続けた展覧会です

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会場入りして目にする最初の作品がこれ。
金属製です。
翼を生やした板は画家が使うパレット。
神話、翼となれば、つい「イカロスの翼」を思い浮かべてしまいます。
ロウで作った翼で上空にいる太陽神にまで飛んで辿り着けると過信した人間のイカロスが、太陽に近づきすぎてロウが溶けて落下したギリシャ神話。
人間の傲慢さを戒めた神話。

そういえば同展覧会のタイトルは「ソラリス(ラテン語で太陽)」でしたね。
パレットが芸術家(=キーファー、または他の作家)を示しているなら、天空に羽ばたく美術家の傲慢さへの戒め作品なのでしょうか??
足元からヘビが迫ってくるのは危うさの象徴!?

ところが作品タイトルは「ラー(エジプトの太陽神)」。
ギリシャ神話ではありませんね。
作家の制作意図とわたしが考えたことはぜんぜん異なるのでしょう。

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クラシックなドレスを着た女性の立像がたくさんあります。
すべて頭がなく、身体だけ。
ホラー映画やサスペンス映画のように不穏な光景ですが、彫刻に頭がないのはキーファー氏によると、
「女性の手柄を男性が搾取してきた、西洋の歴史に根ざした表現」
といった考えによる造形のようです。
知性、思想、社会活動を生む頭部(脳)が切り取られた悲しき姿。
コルセットで締め上げた不健康なドレスを着て、外見も男性に従属させられた20世紀初頭の女性たち。

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展示作品に金素材が多いのは、「以前からよく来ていた京都からの影響だと思う」とキーファー氏が語っています。

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この乳母車は、1925年のロシア映画『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段の虐殺シーンに登場する乳母車から着想したモチーフだそう。
由来を説明されれば、市民が銃撃で惨殺される中で乳母車が階段を降りていく映像が頭に浮かび、恐怖を感じ取ります。
でもこうした予備知識なく、乳母車だけでポチョムキンを連想できる人は限られる気がします。
とくに映画マニアでもないと同映画の存在すら知らないかもしれない、わたしたち現代の日本人には。

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ガラスケースに閉じ込めた空間作品も多数あり。
二条城・二の丸御殿の風格ある室内が、美術展というより博物展のように感じさせた要因かと思います。

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布や金属でつくられたリアルな麦畑。
部屋の一角にはこの景色と思しき抽象画。
来場者の誰もが目を見張っていた部屋です。

作品タイトルは「モーゲンソー計画」。
第二次大戦中にドイツに二度と戦争をさせないように農業国にしてしまおうとアメリカが提案した「モーゲンソー・プラン」から着想された作品だそう。
とても美しい部屋でした。
戦争との結びつきはのちほど調べて知りました。

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無表情&無言で会場を巡っていた来場者たちがホッとしたように、
「これカッコいい」
と口々につぶやいていたのがこの作品。
「カッコいい」って美術展で耳にしない言葉だけに面白い経験でした。
同展覧会でたぶん唯一、はっきりと人物が描かれた作品。
キーファー自身の肖像のようです。
タイトルは「アンゼルムここにありき」

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キーファー展の紹介はこれで終わり。
皆さまいかがだったでしょうか。
「行ってみよう!」と興味が湧きましたか?
「いい体験だった」と訪れたときの思いが蘇ってきましたか?

6月22日(日)で終了するこの展覧会には間に合わなくても、二条城にはなにかの機会に足を運ぶことをお薦めします。
中庭を歩くだけで素晴らしいビジュアルが目に飛び込んできますから。
ニッポンが誇る世界遺産の造形やテクスチャーを眺めるだけでも心地いい時間を過ごせます。
ただ今回訪問した5月はインバウンド客や修学旅行生の集団でごった返しており、人がまばらなキーファー展エリア以外はたいへんなことになってました。
それもあり、やはりキーファー展の開催期間に行くのがベストでしょう。
現在の二条城のなかで唯一といっていい静かな空間を味わえます!

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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