【Penが選んだ、今月の音楽】ジャズ史に刻まれた名曲の数々を、世界各国のZ世代が再解釈

  • 文:山澤健治(エディター)
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『チェット・ベイカー・リイマジンド』

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『チェット・ベイカー・リイマジンド』は、ジャズの名曲を再解釈し反響を呼んだ『ブルーノート・リイマジンド』シリーズの第3弾。コンセプトとなったチェット・ベイカーは、1988年の死後もなお、脱力系歌唱の原点と敬われる“歌うジャズ・トランペッター”。
メイ・シモネス、ベニー・シングス、プーマ・ブルー、mxmtoon、dodie、サラ・カン、エロイーズ他 ユニバーサル ミュージック UCCM-1278 ¥3,080

誤解を恐れずに言えば、我々が現在耳にしている音楽はおしなべて過去の音楽の再解釈である。4月に来日したエリック・クラプトンもあるインタビューで、過去の音楽の「再解釈」こそが新しい音楽を生み出す原動力だと語っていた。もちろん、クラプトンが立ち返る過去とはブルースだが、これはどんなジャンルにも当てはまる話だろう。

オマージュという耳触りのいい言葉の裏でエピゴーネンがはびこる昨今だが、新たな魅力を浮かび上がらせてこそ再解釈の価値がある。その事実を再認識させる好例盤が『チェット・ベイカー・リイマジンド』だ。ジャズ界永遠のカリスマ、チェット・ベイカーが70年前に遺した名盤『チェット・ベイカー・シングス』からの曲を中心に、物憂げで中性的な脱力系歌唱の先駆けとして人気を集めた彼のボーカル曲にスポットを当て、世界各国のZ世代アーティストが思い思いの再解釈で原曲を現代に蘇らせる珠玉のカバー集となっている。

それにしても再解釈のなんと自由なことか。UKのシンガー・ソングライター、マット・マルチーズが歌う有名曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のような原曲に近い物憂げなアレンジも見受けられるが、多くはジャズの領域を飛び越えた曲に大変身。オランダのポップス職人、ベニー・シングスの面目躍如たるベッドルーム・ポップを筆頭に、シルキーなミディアム・ネオ・ソウル、弾き語り系フォーク、ボサノヴァ系ミディアムなどメロウな楽曲が並ぶさまは、清々しささえ覚えるほどだ。2曲のみのインスト曲だけが、ジャズという原点に立ち返らせてくれる。

なお、日本盤ボーナス・トラックをジャジーに仕上げた日系アメリカ人SSW、メイ・シモネスの初アルバム『アニマル』(ビッグ・ナッシング)も繊細で美しい秀作なので併せて聴いてほしい。

※この記事はPen 2025年7月号より再編集した記事です。