
ロンドン中心部のやや東に位置するチャーターハウス・スクエアに、歩いている人たちが思わず足を止めてしまう光景が突如現れ、話題を呼んでいる。
赤レンガ造りのクラシカルな外観がぐにゃりと波打ち、まるで建物そのものが膝を立てて地面に座り込んでいるような姿勢をしているのだ。
この不可思議な“体育座りの建物”は、現代アーティスト、アレックス・チンネックによるインスタレーション作品『A Week at the Knees(膝(を立てて座る)一週間)』。2025年のクラーケンウェル・デザイン・ウィークのために制作されたこの作品は、来場者の目を釘付けにしている。
まるで建物が座り込んでいるよう
この作品は、周囲の歴史的建築と調和するよう、18〜19世紀初頭のイギリス建築様式であるジョージ王朝様式の建物をモデルにしてデザインされている。均整の取れた赤レンガのファサードや格子窓といった古典的な要素が再現されているが、その構造は大胆に変形され、まるで建物自身が芝生の上に腰を下ろしたかのように見える。
Transforming Heavy Materials into Playful Art: Alex Chinneck’s Latest Sculpture in Londonhttps://t.co/m6P81UXz2G pic.twitter.com/0qdJ9TxXud
— Designer Daily (@designerdaily) May 29, 2025
高さ5.5m、長さ13.5m。7000個の本物のレンガが用いられ、内部は再利用鋼材によって支えられている。使われた鋼材の多くは、ロンドン旧アメリカ大使館の解体時に回収されたもので、サステナブルな素材選定もこの作品の特徴だ。
建物にユーモアを加えた作品
チンネックは、これまでにも「結び目のある郵便ポスト」や「ジッパーで開く家」など、建築に錯覚やユーモアを加えた作品で国際的に注目されてきた。都市の中に「あり得ない構造」を挿し込むことで、人々の感覚にズレを生み出す。それは驚きであり、問いかけでもある。
ジッパーで開く家「Open To the Public」。
今回の作品に込めた思いを、チンネックは下記のように語っている。
「私たちはますますリスクを嫌い、監視され、デジタルに囲まれた世界に生きている。そんな時代だからこそ、私の作品は『外に出て探検しよう』という招待状であり、その現実へのささやかな“反発”なんだ」
風景に馴染みつつもよく見ると「なにかがちがう!」、そんなインスタレーションを仕掛けることで、作品は現代社会の閉塞感や無関心への小さな抵抗となる。整いすぎた街に、ちょっとだけ不揃いな「膝」を差し出してみせることで、そこに想像力の余地が生まれる。
都市の中に潜む「詩的な違和感」
うねった壁の下はアーチ状に空いており、通行人はその「膝の下」をくぐることができる。ふと足を止め、建物と目を合わせ、通り抜ける——そんな一瞬の体験が、日常の中に潜む非日常への扉となる。
Alex Chinneck creates undulating house to bring sense of "playful escapism" to Clerkenwell Design Week:https://t.co/kOaf1tj6fs pic.twitter.com/RPllPaDkUF
— Dezeen (@dezeen) May 20, 2025
チャーターハウス・スクエアでの展示は2025年7月上旬までの予定だが、その後は巡回展示も検討されているそうだ。