最速の舞台で描かれる、レノボとF1の“サステナブルな挑戦”

  • 編集、文:青山鼓
Share:
MR_2024_CHINA SUNDAY_047.JPG

名機ThinkPadで知られるレノボは、いまF1の舞台裏で、とても静かに、でも確かにそのスピードを支えている。サーキットを走るのはマシンとドライバーだけではない。リアルタイムでやりとりされる映像や音声、無数のセンサーによるデータ。200以上の国と地域に向けて届けられ、年間15億人ものファンに観戦されているF1では、どれだけのテクノロジーが動いているのか。

速さと精度を極めるF1と、名機を生み出してきたテクノロジー企業であるレノボ。 その協業のゴールが、実は、“ある地球規模の社会課題の解決”にあったと知ったとき、このスポーツの意味が少し変わって見えた。

---fadeinPager---

時速300キロの風にさらされながら、激しく振動するドライバー目線の映像は、F1の観戦体験を生々しく、エキサイティングなものに変えた。

1台のマシンには9台以上のカメラが搭載され、ヘルメット内部から車体後方まで、あらゆる視点がリアルタイムで記録される。ファンは好みの映像を選んで視聴でき、レースや予選のハイライトは数分以内にソーシャルメディアに投稿される。X(旧Twitter)やInstagramを中心に、F1公式アカウントのフォロワー数は9600万人を超える。 

Japanese GP_Trophy Ceremony_4.jpg

F1がスポーツとしてだけでなく、エンターテインメントとしての幅を広げたのは、ここ数年のことだ。ライブ配信の進化、セクターごとのタイム差表示、ドライバー位置をリアルタイムで確認できるアプリ。かつて「現場でしか味わえない」とされていた臨場感が、手元に届くようになった。

この変化の起点は、2017年のLiberty Mediaによる買収だ。アメリカの企業である彼らは、F1をより多くの人に、より深く体験してもらうため、ブロードキャスティングとデジタル領域の強化に舵を切った。レース運営自体もまた、テクノロジーの力で進化している。世界200以上の国と地域へ、正確な映像とデータを届けるため、裏側では分単位で膨大なオペレーションが走り続けている。

膨大なデータが、瞬時に、しかもロスなく処理され、世界中に届けられている。そのスピードと正確さを裏で支えているのが、レノボのテクノロジーだ。

F1とレノボのパートナーシップは2022年に始まった。オフィシャルパートナーとなったレノボとの協業は、2025年からグローバルパートナー兼グローバルテクノロジーパートナーに拡大した。以来、レース運営、サーキットの現場、リモートオペレーション施設まで、F1運営の情報インフラを根本から支えている。

---fadeinPager---

速さを支えるもの

トラックを時速300kmでマシンが走るさなか、サーキットではあらゆる情報が超高速で走っている。ライブ配信されるレース映像はもちろんのこと、ピットとドライバーの間でかわされる無線通信、ラップタイムと各セクターごとのタイムモニタリング、さらにはピットウォールからマシンへのリアルタイム戦略指示まで。サーキットを舞台にした情報のラッシュはとどまるところを知らない。

この膨大なデータは、サーキットに設けられた専用のデータセンターで即時に処理される。クラウドを経由せず、現場でダイレクトに計算・分析されるため、タイムラグは限りなくゼロに近い。

スクリーンショット 2025-05-28 14.13.23.png

 

週末のサーキットで発生するデータ量は約500テラバイト。文字にすれば何億ページにもおよぶ。走行中のマシンからリアルタイムで送られるテレメトリーデータ(速度、エンジン温度、タイヤの摩耗状況など)、センサー情報、オンボード映像。それらは世界各地のデータセンターとも連携し、コンマ単位の遅延も許さず配信される。

現場ではレノボのThinkPadやThinkStationをはじめとするラップトップPCからワークステーションまで、数々の高性能サーバーが稼働している。耐久性と演算能力を兼ね備えた機材群が、世界中のファンにリアルタイムのレース体験を届けている。

---fadeinPager---

F1がレノボと取り組みたいこと、その意外な答え

鈴鹿グランプリのフリー走行が始まる前日、水曜日。サーキット内で行われたラウンドテーブルで、私はひとつ質問を投げかけた。

「このレノボとF1の協業は、社会に何をもたらすのでしょうか?」

答えたのは、レノボのGlobal Sponsorships & Activation Directorであるララ・ロディーニ。

_J5A9244.jpg

「レノボがF1とキックオフをしたときの会話を、いまでもはっきり覚えています。当然、わたしたちはさらなるイノベーションを目指していました。でも同時に、サステナビリティについても真剣に話し合ったのです。そこで決めたことは、カーボンニュートラルの目標を、F1とレノボが同時に達成することでした。」

技術提携といえば、一般的にはパフォーマンス向上、つまりより速く、より強く走るための支援が想起される。それだけに、この協業が最初から「速さ」と「持続可能性」の両立を目指していたことには、少なからず驚かされた。

いまやコンピューティングでも、F1でも、膨大なエネルギーを消費する時代。だからこそ、未来に対する責任を見据えた取り組みが、協業の根幹に据えられたのだ。

現在、F1は2030年までにネットゼロカーボンを達成する目標を掲げ、レース運営全体のエネルギー消費とカーボンフットプリントの削減に本格的に取り組んでいる。

たとえば、Neptune水冷技術。サーバー内部を水で直接冷却し、空冷よりも高効率なNeptuneは、一般的な空冷システムに比べて最大40%の電力削減を実現している。さらに、レノボは廃棄されるIT機材の95%以上をリサイクルに回し、世界中のスーパーコンピュータ500台のうち約3分の1にNeptune技術を提供している。

AI時代においては、巨大な言語モデル(LLM)の構築と運用に膨大な電力とGPUが必要となる。いかに効率的にコンピューティングを運用するかは、未来社会にとって重大な課題だ。F1は、その先端フィールドで技術を磨き上げていく格好の場になっている。

また、F1ではレノボとの協業によって、バーチャルプラットフォームを採用することで、物理的なハードウェアを約50トンも削減することに成功した。世界を転戦するF1サーカスが50トン分の輸送エネルギーを削減することは、大きな環境負荷軽減に直結する。

スピードを競う場でありながら、未来を見据える。F1とレノボの協業は、その両立を追求する取り組みだ。

---fadeinPager---

道具に宿る美意識

テクノロジーを語ると性能やスペックの話になりがちだが、個人的にはもっと感覚的な部分に惹かれることがある。たとえば、ブラックボディのM型ライカにおける赤いロゴ。あるいは、ThinkPadの黒いキーボードに置かれた、あの小さな赤いポインティングデバイス、TrackPoint。クールとは違う、良い道具だけから立ち上る、あの存在感。

F1とレノボの協業にも、どこか同じ空気がある。速さを求め最適化を重ねながらも、最後に立ち上がるのは、合理性や機能だけでは語りきれない、ブランドとしての思想だ。

Japanese GP_2.JPG