フランク・シナトラやミック・ジャガーなど錚々たるミュージシャンたちからも愛され、アメリカンカルチャーの象徴ともなったジャックダニエル。そんなジャックダニエルが100年ぶりに復刻した、「ジャックダニエル10年」がついに日本上陸を果たした。ローンチを記念し、来日したマスターディスティラーのクリス・フレッチャーが開発秘話やジャックダニエルのウイスキーづくりについて語った。
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創業者への敬意から生まれた、長期熟成のジャックダニエル

原則としてバーなどの料飲店のみへの販売。今回のバッチ4が初のグローバルリリースとなる。
アメリカ南部、テネシー州のムーア郡に位置する小さな町、リンチバーグで、ジャックダニエル蒸溜所は1866年に創業した。蒸溜所の創設者は、ジャスパー・ニュートン・ダニエル(通称ジャック・ダニエル)。幼い日からウイスキーづくりを手伝ってきた“ジャック”が自らの蒸溜所を手にしたのは、16歳のときのことだった。
敷地内の洞窟に湧くケーヴ・スプリングのミネラル豊富な水での仕込み、そして蒸溜したスピリッツをサトウカエデの木炭で磨く“チャコール・メローイング製法”など、ジャックが蒸溜所を創業した当時から変わらないウイスキーづくりの伝統ーー。バーボンでもスコッチでもない、テネシーウイスキーとして我が道をゆくジャックダニエルのゆるぎない信念とクラフツマンシップは、150年以上の歳月を経たいまも、小さな町の蒸溜所に受け継がれている。
「ジャックダニエル蒸溜所のあるリンチバーグは人口600人ほどの田舎町で、信号はひとつしかありません。町では多くの人々が代々にわたって蒸溜所で働いてきましたし、私もそのうちのひとりです」
そう話すクリス・フレッチャーは、2020年からジャックダニエルの8代目マスターディスティラーを務める。クリスは5代目マスターディスティラーの故フランク・ボボを祖父に持ち、幼少期は祖父が働く蒸溜所を遊び場に育ったという。

現在のジャックダニエル蒸溜所。伝統のチャコール・メローイング製法や、仕込み水が湧くケーヴ・スプリングなどを見学できる蒸溜所ツアーも大人気だ。
「祖父は私に、ウイスキーづくりは優れたケーキ職人が、毎日同じ味のケーキを焼くことと同じようなものだと教えてくれました。大切なことは、正しい方法で質の高いスピリッツをつくり、樽へと詰めること。コーン80%、ライ麦8%、大麦麦芽12%というレシピ(マッシュビル。原料の比率)をはじめ、蒸溜所でのウイスキーづくりは祖父の時代から変わることはありません」
現在のジャックダニエルには、定番品の「オールドNo.7」のほか、「ジェントルマンジャック」や「シングルバレル」といったプレミアムラインが揃う。それらのすべての製品のベースとなるのは、「オールドNo.7」が体現する“変わらない味わい”。
「水や穀物、香りや味わいに大きな影響を与える酵母や熟成に使用する樽まで、ジャックダニエルのウイスキーはすべて同じ製法でつくられており、それは『ジャックダニエル10年』も同様です」と、クリスは説明する。
今回、日本でもリリースされる「ジャックダニエル10年」は、その名の通り10年以上の熟成を経たウイスキー。暑く乾燥した気候のテネシー州では、スコッチの産地などに比べて熟成が早く進行する。ジャックダニエルのエンジェルズシェアは6年間で約50%。数年の熟成で半分の原酒が蒸散してしまうほど、熟成の管理は難しく“長熟”の原酒は貴重だ。
「これまで私たちは4年から8年熟成させたウイスキーを使い、さまざまな製品を生み出してきましたが、より長い期間の熟成がウイスキーにもたらす香味についての研究も重ねていました。そもそも禁酒法以前のジャックの時代に遡ると、ジャックダニエルには10年、12年、14年、18年、21年といった熟成年数を表記した製品がありました。そこで創業者に敬意を表して、より長く熟成させた年数表記のあるウイスキーの復刻に挑戦しようと考えたのです」
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創業者の手によって、100年以上も前につくられていたというジャックダニエル。復刻にあたっての手がかりは蒸溜所に残されていたボトルのみ。その味わいについては想像する他なかったが、幸いにも彼らには、ジャックの時代から継承されるレシピやウイスキーづくりの哲学があった。
「ジャックダニエルの伝統的なプロセスから変更した点は、10年間という熟成期間と樽の管理方法だけ。『ジャックダニエル10年』では、比較的熟成が早く進むバレルハウス(貯蔵庫)の上層階で7〜8年熟成させた後、最後の数年の熟成を下層階に移して行ったウイスキー原酒を使用しています」
熟成に使用するのはトーストとチャーという2段階の内面処理を施した、アメリカンホワイトオークの新樽。ジャックダニエルでは原則として樽のローテーション(位置の移動)は行わないが、今回の製品では特別に樽を移動・管理することで、長期熟成ならではの奥行きある香りと味わいを実現した。
「レーズンなどのドライフルーツからストーン系のフルーツへと変化し、その奥からはバニラやキャラメル、糖蜜のようなアロマも現れてきます。飲めばフルーティでスイート。心地よいオークやシガー、ドライさも感じられますが、口当たりは驚くほどにスムーズです」
クリスがそう味わいを解説する「ジャックダニエル10年」。お薦めの飲み方を聞くと、「まずはなにも加えずにニートで。長い熟成がもたらす香味を存分に楽しんだ後は、数滴の水を加えて香りや味わいの変化を楽しんだり、氷をひとつだけ加えてロックスタイルで楽しむのもお薦めです」と教えてくれた。
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それぞれの個性を飲み比べたくなる、ジャックダニエルのプレミアムライン

これまでアメリカ国内のみでリリースされ、今夏に日本初上陸を果たす「ジャックダニエル10年」。その味わいに感じられるのは、ジャックダニエルの原点である「オールドNo.7」のDNAだ。「世界中の人々に愛されている『オールドNo.7』は、万人受けのする完璧なバランスのウイスキー。
そのDNAは『シングルバレル』や『ジェントルマンジャック』をはじめ、すべてのジャックダニエルのファミリーに受け継がれています」と、クリスは話す。
「たとえば『シングルバレル』は、バレルハウスの上層階で6年から8年熟成させた1樽のみをボトリングした特別なウイスキー。より力強いオークの風味や、バニラ、スパイスのニュアンスが際立つこちらのウイスキーでは、樽ごとに異なる個性に出会うことができます」
ボトルには樽を識別できるナンバーも記載され、まさに一期一会の出会いが楽しめる「シングルバレル」は、世界や日本のウイスキー愛好家に大人気の1本。クリス自身も「私のお気に入りのウイスキーのひとつ」と教えてくれた。


クリスのお薦めの飲み方はハイボール。「アイリッシュなどソフトで軽やかなウイスキーがお好きな方にはぜひ飲んでもらいたい」とも語ってくれた。
もうひとつのプレミアムラインである「ジェントルマンジャック」は、なめらかですっきりとした味わいが特徴。その軽やかさの秘密が、ジャックダニエルでも唯一となる二回のチャコール・メローイングだ。テネシーウイスキー独自の製法であるチャコール・メローイングは、原料の穀物に由来するオイリーさなどの雑味を取り除き、酵母や樽に由来する好ましい香味をより際立たせるためのもの。
「通常のジャックダニエルでは伝統的に、蒸溜したばかりのスピリッツをサトウカエデの木炭を敷き詰めたタンクに通し、一滴ずつ磨いていくチャコール・メローイングを行います。『ジェントルマンジャック』では、蒸溜後だけでなく瓶詰め前(熟成後)ウイスキーにもチャコール・メローイングを施すことで、よりなめらかでシルキーな口当たりを実現しているのです」
バニラやキャラメルを思わせるやわらかなアロマ、スムーズな口当たりとふくよかな味わいが特徴的な「ジェントルマンジャック」は、ハイボールや爽やかなカクテルのベースにもうってつけ。バランスのよい「オールドNo.7」ならロックスタイルで食事と合わせたり、アメリカでは定番のジャックコークで楽しんだり。「シングルバレル」はストレートやロックはもちろん、その力強い味わいはカクテルのベースとしても重宝しそうだ。
「ジャックダニエルは、小さな町に住む私たちが数世代にわたってつくり続けてきた大切なウイスキー。こうして日本の皆さんに楽しんでもらえることを大変うれしく、そして誇りに思っています」
ジャックの時代から変わらず、一滴一滴に誇りを込めてつくられるジャックダニエルのウイスキー。定番品からプレミアムラインまで豊富に揃うラインアップを、ぜひバーや自宅で楽しんでもらいたい。