父のネガに宿る、娘のまなざし。60年以上前に撮影された異国風景が甦る、写真家・楢橋朝子の個展が開催中

  • 文:Pen編集部
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(C)Asako Narahashi, courtesy PGI

ギャラリーPGIにて、写真家・楢橋朝子の2度目となる個展『1961 They Were Standing There』が開催中だ。今回の展示は、1961年に彼女の父である楢橋國武が記録した、東ドイツやソ連、中国などの写真群を起点としている。

60年以上も前に撮影された未整理のネガは、時間とともに静かに劣化し、フィルムという物質の脆さすらも感じさせる。楢橋國武が国際印刷労働者会議や世界労連への出張の道中で撮影された写真たちは、広場を歩く人々、車窓からの風景、公園、街角、交流会の風景などどれも日常を写している。その中でも、本展では娘である楢橋朝子の視点によってセレクト・プリントされた作品を展示。ネガのキズや剥がれ、そしてビネガーシンドロームによる変質の痕跡は、むしろそのまま「新たな美」として受け入れられている。粒子の粗さと光の滲みは、時代やテクノロジー、国家、個人といったあらゆる変化を、あえて写し出そうとしている。

楢橋朝子は本展にこう寄せている。「ネガの状態が変化しているものもあり、まるで生きているかのようで、そのたびに小さな驚きや発見がある。焼きたいときに焼きたいものを焼く、というシンプルでベーシックなやり方が、このシリーズの場合とてもふさわしいと実感している」

かつて父が見つめた風景が、時を超えて娘の手によって写し出される。本展でその記憶をたどってみてはいかがだろうか。

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(C)Asako Narahashi, courtesy PGI

楢橋朝子 個展『1961 They Were Standing There』

開催期間:開催中~7月2日(水)
開催場所:PGI
東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル 3F
開廊時間:11時~18時
休廊日:日、祝 ※展示のない期間の土曜
入場料:無料
www.pgi.ac/exhibitions/10718