晩年のブラームスを熟練の指先が静かに紡ぐ

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『ブラームス:幻想曲集(国内仕様盤)』 

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アレクセイ・リュビモフ 東京エムプラス XNIFCCD154 ¥3,300

63歳で亡くなるブラームスが60歳前後で作曲したピアノ曲集には決定盤といえる録音がなく、悩ましい傑作だった。だが当時ブラームスが愛奏していたピアノメーカーで弾かれることで、音色の変化は繊細なのに伝わってくる感情のゆれ幅は驚くほど大きい。加えて現代のピアノでは表出されづらい悲哀が自然と漏れ出てくる。楽譜に仕掛けられた凝ったつくりをていねいに表現しつつ自然な歌心も両立させた驚異的な名演奏である。今作を奏でる巨匠リュビモフは80歳。聴けるうちに、来日公演を押さえておくべきだ。

※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。