
世界の第一線で活躍するアーティストの作品を常設展示している青森県の十和田市現代美術館。周辺には草間彌生らの屋外彫刻の中に入って遊ぶこともできるアート広場があるが、なかでも奇妙な外観に目を引かれるのがオーストリアの彫刻家、エルヴィン・ヴルムの『ファット・ハウス』と『ファット・カー』。パンパンに膨れた家や車はこれらを財産として所有する人の身体の延長であり、資本主義経済において膨張する豊かさへの欲望や権力を皮肉に捉えたものだ。
本展は日本の美術館では初の個展。最新作『学校』の建物は痩せすぎで幅が狭く、圧迫感のある室内に屈んで入ると、歪んだかたちの机や椅子が並ぶ。壁には明治維新以降に学校で使用されていた教材や当時の印刷物が掲示され、学校制度や社会規範、それらが押し付けてくる「正しさ」の移ろいやすさ、曖昧さをフィジカルな表現で示唆する。
また、彫刻の原初的なモチーフである身体を起点としたヴルムの代表作も展示。「第二の皮膚」として衣服を彫刻に応用し、物体を人体になぞらえる彼の理念は、今春発表された、イッセイミヤケ2025-26年秋冬コレクションの発想の源にもなった。コレクションのショーではパフォーマーたちが衣服をオブジェのように纏い、身体と衣服、彫刻の概念に新たな息を吹き込む演出がなされた。これは、十和田市街の施設や店で展示される「一分間の彫刻」シリーズのコンセプトをもとに考案されたもの。観賞者は指示書に従い、見慣れた日用品を使って1分間静止したポーズを取る。個人的なはずの身体は主の意思を離れ、新しい文脈を得て彫刻化される。奇想と転覆に満ちたヴルムのアプローチは、普段頼っている固定した視点をゆさぶり、外圧に対する鋭敏で自由な反応を引き出してくれるかもしれない。
『エルヴィン・ヴルム 人のかたち』
開催期間:~11/16会場:十和田市現代美術館
TEL:0176-20-1127
開館時間:9時~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(4/28、5/6、8/4、12は開館)
料金:一般¥1,800
https://towadaartcenter.com
※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。