「目には見えない時間」も、エルメスにとっては素材のひとつ。それをこれまでに、さまざまな表現で腕時計として視覚化してきた。今年の新作でも、独創的なメカニズムとエルメスらしい工芸技術を駆使し、時間をユニークかつ美しくクリエーションしてみせた。
1. アルソー タンシュスポンデュ

9時位置のボタンを押すと、時分針が通常ではありえない12時のインデックスを挟んだ位置に移動し、レトログラードデイトの針は隠れ、時間も日付も読めなくなる。しかしその間、内部では時間の経過は記録され、ふたたびボタンを押すとすべての針が現在時刻を示す。モデル名にある“タンシュスポンデュ”とは、フランス語で“保留された時”との意。2011年に登場した時間を忘れる腕時計が、復活を遂げた。
ダイヤル中央から透かし見せるタンシュスポンデュ モジュールは、アジェノー社によって生み出された。初代はそれを汎用ムーブメントに載せたが、今回はメゾンが資本参加するヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ製の高級機にアップデート。時分針が移動・停止する際に間に挟む12のインデックスを仕上げと色で切り分けることで、ユニークな機構が強調された。



2.エルメス カット タンシュスポンデュ

昨年誕生した、丸型ケースの両サイドをわずかに切り落としたかのようなフォルムが特徴的な「エルメス カット」にも、“時を保留し、時間を忘れる”機構が搭載された。同じくアジェノー社製のタンシュスポンデュ モジュールは、「アルソー」よりも小さい「カット」のケースに合わせた新設計。
作動させた際の時分針の動きは同じだが、プッシュボタンはリューズと対象位置になる8時に移され、レトログラードデイトは取り払われた。代わりに4時位置には、時計の経過をカウントしていることを知らせるランニングインジケータを装備。その針を左回りとすることで、機構のユニークさをより際立たせた。ケースは、既存の3針モデルよりも一回り大きな39㎜となり、唯一無二のタンシュスポンデュ機構をシェアウォッチとしても使えるサイズ感だ。


3. アルソー ロカバール・ドゥ・リール

1837年に高級馬具工房として創業したエルメスにとって、馬は重要なモチーフである。「アルソー」の上下非対称のラグ形状も、馬具の鐙(あぶみ)をモチーフとして生まれた。そのコレクションに新たに登場したダイヤルは、メゾンのもう一つの象徴であるシルクのカレにある“ロカバール ドゥ リール”に描かれた、いたずら好きの馬をダイヤルに写し取った。
馬の姿は彫金とミニアチュールペイントを駆使。背景のロカバールはマルケトリ(寄せ細工)で構成され、その素材はほかにあまり類例がないホースヘアであることが、エルメスらしい。工芸的に極めて優れていることに加え、9時位置のボタンを押すと馬がいたずらっぽく舌を出す、楽しい仕掛けも備わる。
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