“光の記号”でドローイングの可能性を広げる、描線の探求者・鈴木ヒラクの個展が銀座で開催中

  • 文:門倉奈津子
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本展では新作となる16点の大型連作が展示されている。『海と記号 #06』 2025 シルバーインク、顔料、土、アクリル、キャンバス 200×145×5cm(16点組)。 photo by Ooki Jingu©Hiraku Suzuki Studio

東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスでは、「描く」と「書く」の間をテーマに、平面、彫刻、映像、インスタレーションやパフォーマンスなど、さまざまな制作活動をしている鈴木ヒラクの展覧会『海と記号』が開催中だ。会場では、16点の大型キャンバスが円環をなすように配置され、鑑賞者を取り囲むようにして佇む。

2016年より、ドローイングの可能性を開く国際的プラットフォーム「Drawing Tube」を主宰する鈴木ヒラクは、線の概念を空間と時間へと拡張し、その潜在的な存在を追い求めてきた。古代の洞窟壁画や植物、鉱物、さらには光の軌跡といった「非人間の描線」を世界各地で採集・アーカイブし、身体を媒介に再構築することで、「ドローイングの生態学」とも呼べる独自の体系を生み出してきた。

本展の中心となるのは、深海や宇宙を想起させる瞑想的な青を背景に、シルバーで描かれた新作連作の『海と記号』(2025年)だ。光を受けて反射するインクで描かれたのは、水中を漂う発光プランクトン、あるいは細胞分裂や超新星などを想起させる記号群。生命の揺りかごである海は、現代生活の営みと深く結びつく一方で、海洋汚染や自然災害といった緊張を常に孕んだ存在でもあることを表現している。波間に揺れながら、点と線が織りなす光のネットワークは、都市のなかに散在する記号たちと共鳴しながら、私たちの紡ぐ文明の起源へと問いを投げかける。また、考古学的遺物の写真をシルバーで塗り消し、架空の記憶を描き出す『Casting(Ocean)』(2025年)や、新作の映像インスタレーションも見どころだ。キャンバスに浮かぶ光の記号を眺め、果てなき記憶の海に身をゆだねてみてはいかがだろうか。

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『海と記号 #10 (detail) 』2025。photo by Ooki Jingu © Hiraku Suzuki Studio
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『Casting (Ocean) 』2025。photo by Ooki Jingu © Hiraku Suzuki Studio

鈴木ヒラク『海と記号』展

開催期間:開催中〜2025年6月8日(日)
開催場所:ポーラ ミュージアム アネックス 
東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル 3F
開館時間:11時〜19時 ※入場は18時30分まで
入場料:無料
www.po-holdings.co.jp/m-annex