
三菱一号館美術館で開催中の『異端の奇才――ビアズリー』展。19世紀末、彗星の如く現れ25歳の若さで世を去った奇才の足跡を辿る展覧会だ。
初期の素描から晩年の洗練された作品まで、一挙公開
今回の企画展は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)との共同企画。日本でもよく知られているオスカー・ワイルド著『サロメ』やトマス・マロリー編『アーサー王の死』をはじめとする挿絵のほか、初期から晩年までの挿絵や直筆の素描、ポスターや同時代の装飾など約220点が展示されている。1894年ジョサイア・コンドルにより設計された三菱一号館はビアズリーが活躍した時代と重なるが、この空間を活かしてその芸術世界をたっぷり堪能できる構成となっている。
1872年、イギリス・ブライトンで誕生したオーブリー・ビアズリー。宝石職人の息子である父が財産を使い果たし、家計を支えたのは母だった。7歳で肺結核を患ったオーブリーは幼い頃から音楽や絵の才能に長けていたという。16歳でロンドンに出ると昼間は事務員として働くかたわら、夜間に独学で絵を描き続けた。22歳で描いた『サロメ』の挿絵で一躍時の人となるが、画家として成功したあとも公的な画壇や特定の流派には属さず、日中でも分厚いカーテンを閉めて外光を遮断し、蝋燭の灯りのもと制作活動を行った。


会場には初期の素描に始まり、影響を受けたJ.M.ホイッスラーやW.クレインの作品のほか、『サロメ』の挿絵にも描かれている、ジャポニスムの影響を受けたアングロ=ジャパニーズ様式の調度品も展示されている。文学や舞台、調度品など多くの分野で芸術の華が咲いた、19世紀末のデカダンなムードを辿ることができる。


1860年代、イギリスで流行したアングロ=ジャパニーズ様式。会場には家具や食器、浮世絵を紹介した雑誌なども展示される。 エドワード・ウィリアム・ゴドウィン『ドロモア城の食器棚』1867-86年 豊田市美術館
ビアズリーの名を世界的に有名にしたのは作家のオスカー・ワイルドだ。当時、最先端の洒落た装いで、唯美主義運動の広告とされたワイルドは英訳版『サロメ』が出版された翌年、同性愛の罪で逮捕されてしまう。その余波でビアズリーも仕事を失い、生活費のためにギリシア喜劇『リューシストラテー(女の平和)』の挿絵に代表される“卑猥な絵”を描いた。会場には「18歳未満は立ち入り禁止」として黒いカーテンの奥に密やかに展示されている。
サロメの騒動の後、1895年以降は『髪盗み』や『モーパン嬢』などの洗練された装丁や挿絵、文芸雑誌『サヴォイ』に多彩な作品を発表。繊細な線と大胆な構図、グラフィカルな感性を注ぎ込んだ膨大な作品群からは、円熟に向かうビアズリーの魅力が感じられる。しかし旺盛な制作意欲とはうらはらに持病の肺結核は悪化し、1898年春、25歳の一生を終える。暗い部屋でロウソクの炎のもと、不治の病と闘いながら妖艶な美的世界を追求したビアズリーの作品は、現代にもその燈を照らし続けている。

展覧会開催に合わせ、都内7つの書店(紀伊國屋書店 新宿本店、三省堂書店 池袋本店、東京堂書店 神田神保町店、銀座 蔦屋書店、丸善 丸の内本店、代官山 蔦屋書店、紀伊國屋書店 大手町ビル店)では、ビアズリーに関連する書籍をセレクトしたフェアが実施される。本の挿絵も多く手がけたビアズリーと印刷物は切り離せない関係。展覧会を鑑賞したあとは、書店巡りをしてみるのも楽しいだろう。※店舗によって開催時期が異なるので、詳細は各店舗にお問い合わせください。
『異端の奇才――ビアズリー』展
開催期間:開催中〜2025年5月11日(日)
開催場所:三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
休館日:月(但し3/31、4/28、5/5は開館)
https://mimt.jp/ex/beardsley/
※チェック柄のアイテムを身につけて来館すると観覧料が100円割引になる。チケット窓口にて「英国チェックコーデ割お願いします」とお声がけを。