
海外からの観光客が増加している東京。彼らの旅の目的で最も挙げられる理由のひとつが、日本の創作料理だ。去る1月14日、予約困難店の女性シェフたちと、“世界が認めたフーディー”の異名を持つ浜田岳文による、一夜限りのディナー&トークセッションが行われた。本イベントは、東京産の食材や東京で味わえる多彩な食の魅力を世界に伝えるイベントだ。
この日登壇したのは、2022年版『Asia’s 50 Best Restaurant』で『アジアの最優秀女性シェフ賞』を受賞した「été(エテ)」の庄司夏子、名店「麵処ほん田」で修業後、ミシュランビブグルマンの人気店女将として名を馳せた女性ラーメン職人で、現在は完全予約制の割烹料理「純麦」を営む矢嶋純、2024年『Asia’s 50 Best Restaurant』でアジアのベスト・ペイストリー・シェフ賞に輝いたFAROの加藤峰子の3名。
いまをときめくシェフたちの料理をミシュラン3つ星獲得のトップシェフや、世界中のグルメジャーナリストたちが堪能。彼女たちの食へのこだわりや素晴らしいテクニックの数々に、この日訪れた世界中のグルマンたちも感嘆していた。
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一流料理人たちも魅了される、東京産食材に込められた想い

庄司夏子による前菜「ポメロフラワー」。くり抜いたレモンには、東京湾で水揚げされたカツオとバジル、ヘーゼルナッツのタルタルにガスパチョソースがたっぷり。

この日振舞われたのは、彼女たちのシグニチャーと、東京産の食材を使用した一夜限りの特別メニュー。前菜とメインを庄司、締めのラーメンとかき氷を矢嶋、デザートを加藤が担当した。肉、魚介、野菜、さらにフルーツまで、幅広い東京産の食材を使用。素材のポテンシャルの高さを活かした料理は、ゲストたちを魅了した。
メイン料理を担当した庄司は、東京の生産者の素晴らしさを改めて実感したと語った。
「東京湾の食材に着目することで、新しい発見がたくさんありました。メインに使用した、東京湾で水揚げされた伊勢海老で感じたのが、生産者さんたちの食材の処理の仕方の技術と丁寧さです。いま日本の食材が世界に誇れるのは、彼らの事前の処理の仕方があってこそ。それが圧倒的な世界との差になっていると思います。生産者さんのケアのおかげで、我々が最高のものを出させていただいてると、この取り組みを通してより感じました」
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小規模なのには理由がある? 東京グルメ独特の文化


今回のシェフ3名は、東京を拠点に活躍しているだけでなく、出身も東京という共通点が。そんな彼女たちが自分で店を持つようになり感じたのが、東京ならではのアプローチの素晴らしさだったという。東京から、イタリアなどヨーロッパを中心に活動してきた加藤はこう振り返る。
「東京の食の魅力は、やはり東京に住んでいる人たちのオタク度が高いというところだと思います。広く浅くではなくて、深く掘り下げるというところが、日本の食の中でも東京の魅力かなと思います。深く掘り下げながら独特な街ではあると思うんですけども、そこがやっぱり発見する毎に楽しさが増していくのがいいなと思います」
東京独特の深く掘り下げるという信念は、庄司にも通ずるものがあると語る。
「小さい規模のお店がいちばん多いのが東京。やはりシェフが『自分のフィルターを通した料理しか出したくない』という確固たるこだわりのある、頑固な人が多いのではないか思います。それは大きいお店で大きいお金を得たいというよりも、本当に自分の手の届く範囲のみでしか許したくないという、譲れないものがあったり……。そういった気持ちの持ち方っていうのは日本、ないしは東京ならではなのかなと思っています」
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材料に捉われず、料理を通して感じる喜びの普遍性

「薔薇と檜とアーモンド」。東京産のいちご、べにほっぺを使用した。あきる野市の檜、薔薇を中心とするハーバルな香りが、東京の自然を想起させる。

「日本の里山の恵 花のタルト」。植物性の原材料で出来たタルト生地の上にアグロフォレストリーで育てられたバニラで華やかに香り付けした豆乳クリームをのせ、その上に20種類前後のハーブや花を載せた。スッキリ消化を助けるような一品を提供したいとイタリアで食後酒として飲むアマーロから着想を得た。
デザートを担当した加藤は、日本の自然や和のハーブをリスペクトした美しいデザートづくりが有名のパティシエール。自家酵母など原材料からこだわり、体質や宗教を問わず、誰でも楽しめるメニュー開発にも積極的に取り組んでいる。今回のデザートのテーマは、“日本の里山”。東京の檜などをベースに香り付けしたジュレや、日本各地の里山ハーブなどを使用。加藤は、近年デザートづくりにおいて、その役割の“普遍性”を追求しているという。
「プラントベースのデザートをつくり始めて、グルテンフリーでシュガーフリーに近い方法というか、いろんな宗教の方々が食べられるよう、上白糖を使わないデザートづくりをこの6年間ずっとやってきました。デザートは、特にレストランだと食事の最後ということもあり、やっぱり余分なカロリーは必要なかったりする。食事の最後の官能的な瞬間や、自分の喜びのために食べるものとして美しさや香り、食感にこだわるようになりました」
矢嶋も、材料や素材に制限させられることなく、いかに多くの人に楽しんでもらうために、さまざまな表現を日々模索しているとし、「動物系が全く駄目というお客様がいらっしゃった時は、出汁の乾物の煮干しと昆布とカツオだけのスープでやったこともありました。脂も牛脂だったりラードだったりとかを使わず香味油でやったり。でもそういうのをしっかりやって、どんな人にも喜んでもらうきっかけにしたいなと思っています」と明かした。
国籍、宗教、趣味趣向など、多様性がますます重んじられてきている東京。東京ならではのそれぞれプロフェッショナルとしての良さを求める追及心、また、時代とともに変化していくシェフたちの技術とアイデアにあふれた料理に今後も注目していきたい。
TOKYO Artissense