思い出の味からロケ先の逸品まで、「腹が減った」と唸る食エッセイ【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】『たべるノヲト。』

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『たべるノヲト。』

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松重 豊 著 マガジンハウス ¥1,760

ドラマ『孤独のグルメ』で井之頭五郎を演じているあの人は一体なにを食べ、どんな想いを抱いてきたのだろう。昭和の子どもの殿堂、デパートの大食堂での大失態。吉祥寺を歩けば甦る風呂無しトイレ共同四畳半で暮らした極貧時代。食の記憶は人生の記憶。ときには自ら台所に立ち、この常備菜は自分の担当だからと高菜のごま油炒めをつくる。ロケ先で油揚げの味噌汁の旨さにハッとして確認せずにはいられない。そういう人だからこそ海苔やうずらの卵までがやけにおいしそうで、洒脱な語り口に引き込まれる。

※この記事はPen 2025年1月号より再編集した記事です。