伊タイヤメーカー、ピレリによるカレンダーは“人間の美”を表現したアートブックだ

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Pirelli Calendar
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フェラーリやランボルギーニなど高性能車のタイヤで知られるイタリアのメーカー、ピレリ。そのピレリが毎年制作するカレンダーは、アートブックとして世界的に知られている。

先日、2025年版である「ピレリカレンダー 2025」がロンドンの自然史博物館にて発表された。毎回著名なファッション写真家を起用し、各界で活躍する人物をモデルを撮影するこのカレンダー。今回も独自の審美的な世界観が健在だ。

Hunter Schafer 02.jpgイーサン・ジェイムズ・グリーンが撮影する様子。

2025年版で起用された写真家は、ニューヨークで活躍するイーサン・ジェイムズ・グリーン。ファッション写真と人物ポートレートで評価が高く 「ヴォーグ」「ハーパーズ・バザー」「i-D」「ニューヨーカー」「W マガジン」といったメディアや、ルイ・ヴィトン、アレキサンダー・マクイーン、ディオールなどのファッションブランドとのコラボレーションも実現してきた。

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ピレリは、フェラーリやランボルギーニなどのスーパースポーツカーのタイヤに選ばれているし、現在F1における独占タイヤサプライヤーでもある。クルマが好きななら先刻ご承知のとおりだろう。

だがカレンダーは、タイヤとはまったく別の事業。事業といっても、非売品のため営利目的ではなく、限られた顧客に配布されるものだ。

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初回は1964年で、写真家はロバート・フリーマンを起用。その後も、著名な写真家が女性の裸身をテーマに美しい作品を撮影してきた。コロナ期に休みもあったが、現在までに51作が送り出されている。時折アート書専門店で、どこから流出したのか、非売品のはずのピレリカレンダー(英語だとPirelli The Calなどと呼ばれる)が店頭に置かれていることもある。

当初はクルマとのつながりが強く、自動車修理工場などにタイヤがらみの販促品として配られていたが、やがて方向を大きく転換。壁かけの月めくりというよりは、大判のアート写真集の趣。近年は、裸身の写真はなくなり、モデルの性や人種の多様性が重視されてきた傾向に即している。

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PADMA LAKSHIMI
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PADMA LAKSHIMI

カレンダーには「リフレッシュ・アンド・リヴィール(Refresh And Reveal)」なるコンセプトの下、グリーンが手がけたのは 24 枚の写真。12人の被写体がそれぞれカラー写真1枚と白黒写真1枚で写っている。

ピレリカレンダーのメディア向け資料によると、今回のキャストには、さまざまな年齢と国籍の俳優、アーティスト、歌手、モデルが含まれており、「(グリーンは)ピレリカレンダーの歴史と、身体を通して明らかにされる美の探求に立ち返り、被写体に対して官能的なアプローチをとっています」としている。

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VINCENT CASSEL
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VINCENT CASSEL

「最近私が出版した本も、モデルのセクシュアリティと、カメラの前でそれをどのように表現するかを探求したものです。ピレリのようなプロジェクトへの私のアプローチには、間違いなくその影響が反映されています。コラボレーションは私のプロセスにとって非常に重要であり、モデルたちは私と一緒にイメージをつくることに積極的に参加してくれました」

グリーンは、カレンダーの撮影について感想を尋ねられて、上記のように述べている。

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ELODIE

制作に力を貸したのは、『Vogue』のもとファッションエディターであるトン・グッドマン。プロジェクトのファッションディレクター兼クリエイティブコンサルタントを務めた。グッドマンの仕事は、モデルに何を着せるか、というより、何を見せるか、そのために何を隠すかだったそうだ。

「体、姿勢、セクシュアリティ、自由など、何かをさらけ出す(=reveal)ことはチャレンジです。今回の場合、エレガンスとビジョンを尊重しながら、さらけ出すために隠すべきは隠さなければなりませんでした」

とグッドマン。そしてつけ加える。

「体をさらけ出すことで個人的な感情が表れた姿勢を表現するための手段として使用できる服を見つけることがチャレンジでした」

2025年版でグリーンとグッドマン、そしてスタッフ全員がつくりあげようとしたのは人間を表現した作品集だ。それを意識して、ここで紹介した写真を眺めていただきたい。

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Ethan James Green Selfportrait