限られた時間の中で一瞬を映し出し、作品をつくることに情熱をささげる映像クリエイター。普段彼らが愛用する腕時計にはどんなこだわりがあるのか。第一線で活動を続ける4人に話を訊いた。
Pen 2024年12月号の第1特集は『100人が語る、100の腕時計』。腕時計は人生を映す鏡である。そして腕時計ほど持ち主の想いが、魂が宿るものはない。そんな“特別な一本”について、ビジネスの成功者や第一線で活躍するクリエイターに語ってもらうとともに、目利きに“推しの一本”を挙げてもらった。腕時計の多様性を愉しみ、自分だけの一本を見つけてほしい。
はじめてのシルバーカラーに、愛着が湧く瞬間
「2020年に、2回目の結婚記念日に妻からもらった時計です」
ファッションモデルとしても活躍していた映像作家の米倉強太は、身に着けるものへのこだわりは強い。彼の時計は1971年製のオメガ「コンステレーション Cライン」。名デザイナー、ジェラルド・ジェンタが手掛けた作品のひとつだ。
「自分で買う時計はいままで絶対にゴールドでした。肌の色にシルバー色は似合わないと思っていたのですが、いつからか自然に馴染んでいて。自分の価値観が変わっていくことに面白みを感じています」
ラグとひとつになった大ぶりのケースにタフな印象を持ち、安心感があると語る米倉。
「1960年代のアルファロメオのジュリアというクルマを持っているんですが、こいつが出先でけっこう壊れる(笑)。エンジンルームに手を突っ込んで修理するのですが、その時も時計を着けたまま普通に作業していますね」
トラブルのたびクルマに愛着が湧くと同時に、時計とのつながりも築かれているのだ。
OMEGA / オメガ「コンステレーション Cライン」
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受け継がれた物語が、腕時計の価値になる
TBS系報道番組でキャスターを務めるなどアナウンサーとして活躍した国山ハセン。2023年からはビジネス映像メディア『PIVOT』のプロデューサーに就いた。
「秒刻みで時間を管理することが仕事なので、腕時計は常に着けます。時計との原体験は父との思い出。着けているものを子どもの僕に自慢するほど時計好きだったんです。スーツにきれいな靴やドレスウォッチを合わせたスタイルはかっこいいなと思っていました」
そんな父の形見である腕時計がオメガの「デ・ヴィル」だ。
「大きな舞台で司会をする時など、今日は勝負の日だという時はいつもこれを着けます。朝、時計を手に取った時には父と対話をしているような気持ちになります。その積み重ねでストーリーが生まれてこの時計だけの価値になっていくのは面白いと思いますね」
憧れは、カルティエの「タンク」。いつか妻と一緒に着けたいという。日々の小さな物語の蓄積に尊さを感じる国山は、腕時計も家族も永く大切にするだろう。
OMEGA / オメガ「デ・ヴィル」
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背伸びを悟られたら負け、漢気で選んだ腕時計
「この一本とは偶然出合いました。100万円を超える時計を購入するのは初めてで、ためらいながらも思い切って買いましたね。
雑誌や広告、YouTubeの『THE FIRST TAKE』など、さまざまなメディアで活躍するフォトグラファー、長山一樹。スーツにハット姿のスタイルにもこだわりを持つ彼がパテック フィリップの「カラトラバ 3919」を購入したのは2016年。セレクトショップのヴィンテージウォッチコーナーだった。
「スーツで撮影するスタイルがやっと馴染んできた頃でした。時計は袖にかからない薄さが大事。時計を着ける左手は、右手と袖口のサイズを変えるくらいオーダーでシャツも調整していましたし」
腕時計を手首に載せるとサイズはぴったり。そして自然と気が引き締まったと振り返る。
「スーツを着ることもそうですが、若い自分なりに頑張って買ったところもありました。でも、気負いがバレたら負け。男としての成長をゲーム感覚で楽しむ、そんな遊びのひとつがこの時計でしたね」
PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ「カラトラバ 3919」
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