VOCA展にてグランプリを受賞。アーティストデュオ、Nerhol(ネルホル)とは?
グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太により、2007年に結成されたアーティストデュオ、Nerhol(ネルホル)。人物を数分間連続して撮影し、出力して重ねた200枚の写真にカッターナイフで彫りを施したポートレートで注目を集めると、2020年には「VOCA展」(上野の森美術館)にてグランプリを受賞するなど高く評価される。そして最近も太宰府天満宮宝物殿(福岡)やレオノーラ・キャリントン美術館(メキシコ)をはじめ、国内外での展覧会にて精力的に作品を発表。人物、動植物、水や火、それに風景などをモチーフとしながら、写真と彫刻の境界を行き来する表現を通じ、人間社会と自然環境、時間と空間の多層的な探求を続けている。
千葉市をテーマとした最新作の他、未発表作を含むこれまでの活動を紹介
千葉市美術館では、国内の美術館で初めての大規模な個展、『Nerhol 水平線を捲る』が11月4日まで開かれている。ここでは人物の連続写真を重ねて彫る初期のポートレートから、近年の活動の特徴でもある帰化植物や珪化木(ケイカボク)、それにアーカイブ映像やネット上におけるパブリック・ドメインのデジタルデータなどを素材にした作品を公開。あわせてNerholのふたりが「共存」をテーマに選んだ同館のコレクションも展示することで、近世から現代までのさまざまな作品との対話を生み出している。また建築家の西澤徹夫の協力の元、大胆かつ綿密に構成された展示プランや、千葉市の花である蓮(オオガハス)をテーマしたインスタレーションも見どころといえる。
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帰化植物から珪化木を素材にした作品も。Nerholの多彩な創作世界
2000年より制作しているモチーフが、シロツメクサやコデマリといった、日本国内に持ち込まれて野生化した帰化植物だ。国境を超えて移動や繁殖を続ける帰化植物は、Nerholにとって世界の事象や関係性を読み解くための重要な対象であるという。一方で床に置かれた石のような作品は、地中に埋もれた樹木に珪酸が浸透し、化石化した珪化木を素材としたもの。Nerholは人間の生よりも長い時間軸を有する珪化木を水平に切ることで、内部に閉じ込められていた膨大な時間を切り開こうとしている。この他、単なる木の枝に見えながら、輪切りという彫刻的な行為を加えた作品や、19世紀イギリスの写真家、エドワード・マイブリッジの撮影した連続写真を引用したプリントなども展示され、Nerholの多彩な創作を辿ることができる。
江戸絵画から現代アートまで。千葉市美術館のコレクションとコラボ!
同館のコレクション42点とのコラボレーションが充実している。会場ではイケムラレイコや高松次郎、ダン・グラハムにトーマス・ルフなどの作品が並んでいて、珪化木を素材にした作品の向こうに李禹煥の『With Winds(風と共に)』が広がっていたり、街路樹を切断し、断面を撮影、出力した積層に彫刻を行った作品が、ダン・グラハムの『円形の入口のある三角柱(ヴァリエーションE)』のミラーに映り込む光景などを楽しめる。また現代美術だけでなく、江戸時代の絵画が出展されているのも面白い。菱川師宣の『天人採蓮図』とは、空を舞いながら蓮の花を摘みとろうとする天女を描いた作品。Nerholも蓮を作品の素材として取り込んでいるが、ここに師宣の生きた300年以上もの前との時間が交錯しているように思える。
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蓮(オオガハス)をテーマとした新作インスタレーションを公開
作品を発表する場所の土や関わりの深い植物を混ぜた和紙を作り、それらの積層を掘り込み、壁面に架ける作品を2023年より手がけるNerhol。今回は世界最古の花として知られ、千葉市内で採取された蓮(オオガハス)を一部に使用した黄色い和紙の作品を展示。さらに歴史的建造物のさや堂ホールにて、蓮(オオガハス)を素材とする大量の和紙を床に覆い尽くすインスタレーションを公開し、美しい蓮池を思わせるような光景を築いている。紙を重ね、彫り刻んだNerholの作品は、写真や図版を通して見るよりもはるかに物質感が強く、見る角度によってがらりと表情を変えるなど、極めて多面的だ。いま最も注目すべきアーティストデュオによる、千葉でしか体験できないような個展を見逃さないようにしたい。
『Nerhol 水平線を捲る』
開催場所:千葉市美術館(千葉市中央区中央3-10-8)
開催期間:開催中〜2024年11月4日 (月・祝)
https://www.ccma-net.jp/