2021年に東京藝術大学卒業展で発表した作品が、瞬く間にSNSを通じて世界のファッション業界関係者の目に留まってからというもの、ファッションショーや展覧会で作品発表を続けるファッションデザイナー・岡﨑龍之祐。22年春夏シーズンに、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」でデビューショーを披露し、翌年のファッションプライズ「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ2022」ではファイナリストにノミネート。今年5月にニューヨークで開催されたファッションの祭典、メットガラに併せて開催されたメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートでの大型展『Sleeping Beauties: Reawakening Fashion』では、名だたるファッションブランドが並ぶなか、岡﨑も一点、作品を展示・所蔵された。
時を経て何十年も歴史に名を残す装いとしてのファッション。まさにメトロポリタン美術館で体感した世界は、彼がファッションデザイナーへの道を進むきっかけになったのだという。既に国内外で高い評価を得ている岡﨑に、ジャンル、文化、言語の壁を超えて多くの人の心に響く表現の核心について話を聞いた。

1995年、広島県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を修了。2021年、「第69回東京藝術大学卒業・修了作品展2021 買上」に選ばれた後、楽天 ファッション ウィーク東京にてデビューショーを発表。2022年 LVMHプライズ 2022 ファイナリストに選出。
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ファッションは「表現のひとつ」と捉えていた
――ファッションからアートまで幅広い発表の場で活躍されていますが、表現することに興味を持った最初のきっかけは?
小さい頃から絵を描くのがすごく好きで、小学1年生の時に学校の先生に美術教室に行くことを勧められてから、絵以外にも立体作品を触るようになりました。ずっと美術を続けつつ、サッカーにも夢中になって取り組んでました。
並行して、中高生の頃にファッションとの出会いがありましたね。まずは地元の広島で友達がよく通っている古着屋について行くところから始まり、いろいろ調べていくなかで、コムデギャルソンやアレキサンダー・マックイーンなど表現的なファッションのアプローチを知った時に、漠然とですが「こういうものがつくりたい」と思ったことがいまに至る原体験になっています。
――「こういうものがつくりたい」というのは、具体的に言うと?
一見「わからない」と感じるけれど、なぜかすごくエモーショナルで人の心を動かすことができるものですね。彼らがファッションショーで発表するようなドレスや服たちは、普段は着られない非日常的なものですが、ファッションとしては歴史に残る強度がある。自分が装うことにも興味はありましたが、つくり手としてはそうしたものに興味を惹かれました。
――そこからファッションスクールではなく、東京藝術大学美術学部デザイン科に入学しました。国内のファッションデザイナーとしては珍しいバックグラウンドかと思います。
そうですね。ファッションはパターンメイキングやデザインではなく、表現のひとつとして捉えていたので、自分の中では自然な選択肢でした。大学院ではグラフィック、ビジュアルコミュニケーションをおもに学びましたが、ファッションもビジュアルとして見た時に人の心をつかむかどうかがいちばん大事だなと思っていて。僕がつくる服は、自分の身体と乖離してはいますが、社会や人と関わるビジュアルコミュニケーションとしてのグラフィックデザインと同じ感覚を持っていると思います。
――大学時代に、技術面以外でいまの活動につながる刺激となった経験はありますか?
松下計(けい)教授のゼミで、とにかく手を動かして実験し、ビジュアライズを繰り返していくことの重要性を感じました。自分で満足するところまでいったとしても、その先にもう一段階グッと詰め込んでみたり、一度俯瞰してみて再度トライする精神性を教わりました。たとえば、計算せずに偶然周辺に散らばっている素材の跡が、意外に面白くなっている時がありますが、そういった視点の動かし方はいまでも影響を受けているところです。感覚的な部分ではあるのですが、粘り強くかつ客観的に自分の作品と向き合う力は鍛えられたと思います。
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ある夜突然、メトロポリタン美術館のキュレーターからメッセージが

――在学中の2018年に発表した作品「Wearing Prayer」について教えてください。
広島出身ということもあり、この作品に限らずいつも「祈り」をテーマに制作してきました。「Wearing Prayer」では、広島に世界中から贈られた無数の折り鶴を再生している会社に声を掛けて制作しました。いただいたリサイクルペーパーに自分で絵付けをして、それらを数ミリ単位に切り、祈りを込めるように撚った紙の糸を使ってドレスをつくったんです。しめ縄をはじめ、糸を撚ることって神道的な祈りの行為ですよね。5カ月間の制作プロセスは指紋もなくなるほどに大変でしたけど(笑)、この作品を機に自然や平和、生命に対する祈りを意識するようになりました。
――その後、卒業展で展示した、高さ3.5メートルほどのマネキンに着せた作品、「JOMONJOMON」がインスタグラムなどを通して世界各国の業界関係者の目に留まっていきました。同作品を含めて、岡﨑さんの作品では左右対称な造形が印象的ですが、どこから制作していくのでしょうか?
肩にかけるところから始まって、どんどん下に下がっていくような作業を続けています。特にこの作品では、どういう色面がきたら気持ちよくなるか、グラフィック的な観点を持って制作していましたね。自然な反発によってニット素材がくるくると曲線を描いているのですが、そうした偶然出来上がったパーツをひとつずつ組み合わせてシンメトリーな造形をつくっています。作品タイトルの通り、縄文土器という過剰な装飾美を通して、当時の人々が自然を畏れながらも、祈りを描いていたことに着想を得ています。


――今年9月2日までニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されていた大型展『Sleeping Beauties: Reawakening Fashion』では、錚々たるファッションデザイナーに並んで作品が一点、所蔵・展示されたそうですね。日本の若手デザイナーとしてはまれな機会かと思いますが、どのような経緯で決まったのでしょうか?
去年の夏頃、突然キュレーターのアンドリュー・ボルトンさんから日本時間の深夜にメールをいただいて。夜に見た時は夢かなと思ったのですが、朝見て本当なんだと気付いた瞬間はとても嬉しかったです。「大地」「空気」「水」に焦点を当て、3セクションに分かれた展示の中で、僕の作品は「ナイチンゲールとバラ」というスペースで展示されました。キュレーターの方は、鳥と人間が融合した造形のように僕の作品を捉えてくださったみたいです。展覧会では普段収蔵庫で眠っている数々の歴史的な衣服を軸に、僕の作品を含めて新たに収蔵された作品も一緒に展示されていて。オープニングでは、トム・ブラウンさんやジョナサン・アンダーソンさん、もちろんアナ・ウィンターさんもいてすごく緊張しました。


――メトロポリタン美術館での展覧会以前から、今年は海外での展示も多くありましたよね。
今年5月に中国・深圳の「D+ Museum」で個展を開催しました。「光彩之鼓动ー绳文时代以来的生命节奏」という展示タイトルは、縄文から続く生命の輝きの鼓動というような意味を持っていて。ファッションショーやルック写真とは違って、展示空間ではライティングを使って影も含めて立体的な演出をすることで、まるで大きな生命体の中に包まれるような神秘的な空間にしました。

――これから挑戦してみたいことはありますか?
いままでさまざまなかたちでの発表を行ってきましたが、まずは自分がつくりたいものをずっとつくれる環境をこのまま継続できたら嬉しいです。
――国外での展示が続きましたが、これから国内で作品を観る機会はありますか?
京都国立近代美術館にて9月13日から開催されている展覧会『LOVE ファッション −私を着がえるとき』に参加しています。12月21日からは熊本市現代美術館、その後、東京でも巡回展示されるようなのでぜひご覧いただけたら嬉しいです。

『LOVEファッション―私を着がえるとき』
開催期間:開催中〜11/24
会場:京都国立近代美術館
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜(ただし、9/16、23、10/14、11/4は開館)、9/17、24、10/15、11/5
料金:一般¥1,700
www.kci.or.jp/love