国内美術館初となるポール・ケアホルムの本格展示で、 素材と向き合った軌跡を改めて知る【Penが選んだ今月のデザイン】

  • 文:高橋美礼(デザインジャーナリスト)
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「PK24」は、ポール・ケアホルムが生み出した洗練されたフォルムのなかでも代表的なシェーズロング。ベースはステンレススチール製、シートは籐張り、革製のヘッドレスト付き。シートの角度を変えられることから、ケアホルムは「ハンモック」とも呼んでいた。 ポール・ケアホルム《PK 24》1965年 織田コレクション/北海道東川町蔵 撮影:大塚友記憲

1950年代から70年代にかけて数々の名作家具を生み出したデンマークのデザイナー、ポール・ケアホルム。19歳で木工マイスターの資格を取得後、コペンハーゲンの美術工芸学校で工業デザインを学ぶかたわら、ハンス・J・ウェグナーの事務所に勤務していたこともある。伝統的な木工家具の製法を継承しながら、たとえばステンレススチールのような当時の新素材を積極的に取り入れ、従来にはなかった精緻な構造やフォルムを実現していった。51歳で亡くなるまで、約30年の間に世へ送り出された名品はいまなお、多くの愛好者やコレクターの好奇心を刺激し続けている。

北欧デザインの黄金期を築いたひとりであるケアホルムについて、日本の美術館で本格的に紹介されるのは、意外にも今回が初めて。パナソニック汐留美術館の川北裕子学芸員は、「北欧デザインへの関心がより細分化されているいま、その源流にあるものとして焦点を当てたいと考えました」と話す。

「ケアホルムのデザインには、素材の特性をどのように活かすか、木とスチールのような異素材をどう組み合わせるか、といったことが非常に細やかに計算されているのがわかります。古色をおびてゆく美を見出すというよりも、ミニマリズムを極めるデザイン哲学があるからこそ、現代でも多くの人に受け入れられているのではないでしょうか」

展示は、椅子研究家の織田憲嗣氏が収集してきた「織田コレクション」(北海道東川町)などから選ばれた代表的作品約50点と、貴重な資料が中心となる。会場構成を担うのは、建築家の田根剛だ。作品ひとつひとつの構造やディテールに焦点をあてる展示の工夫によって、ケアホルムへの理解を深いものへと導いてくれるだろう。

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ポール・ケアホルム 1953年 photo courtesy of FRITZ HANSEN

『織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム』

開催期間:6/29~9/16
会場:パナソニック汐留美術館
TEL:050-5541-8600
開館時間:10時~18時(7/5、8/2、9/6・13・14は20時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:水曜日(9/11は開館)、8/13~8/16
料金:一般¥1,200
https://panasonic.co.jp/ew/museum

※この記事はPen 2024年8月号より再編集した記事です。