この夏は工芸に親しもう!見どころいっぱいの『おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展』

  • 文・写真:はろるど
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イサム・ノグチの《AKARI》で設えた「芽の部屋」。右奥は熊井恭子の《Screen-D》(1987年)。剣持勇の《丸椅子C-315-O》やアルヴァ・アアルトの《アルテック65》などに座りながら、光と影の移ろいをじっくりと体感できる。

堅苦しいイメージがあったり、知識がないと理解できないと思いがちな工芸。決して日々の暮らしと工芸とは疎遠ではないものの、「どういう風に見れば良いのか分からない」や「そもそも作品の名前が読めない」などという声もちらほら……

一方で作品を前にして思わず立ち止まり、かたちの美しさや細かな意匠に心を揺さぶられることも少なくなく、自由な感性で楽しめるのも工芸の魅力といえる。現在、国立工芸館(石川県金沢市)で開催中の所蔵作品展『おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展』では、光と影をキーワードに約130点の工芸の名品を紹介。あわせて工芸作品をより楽しむためのヒントを提案する各種プログラムを用意し、工芸の奥深さを気軽に味わうことができる。

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小川雄平《陶製黒豹置物》(1933年) やきものに使われる釉薬にはガラス成分が多く含まれるため、焼成すると表面が滑らかになり、光を反射する。

 

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福本潮子《時空3》(1993年) 織り目の粗い薄手の麻布にインスピレーションを受けて制作された作品。櫛でとかすように緯糸をずらし、平滑な面に変化をつけている。身体を少し揺らしながら、右へ左へと視線を変えて見るのもおすすめ。

作品の表層や構造に浮かび上がる光と影の様子とは? 獲物に迫る一瞬を切りとったような小川雄平の《陶製黒豹置物》に注目したい。肩から背中にかけての筋肉の盛り上がりや、しなやかに伸びる脚などが情感豊かに表現されていて、全身は歯の先まで真っ黒。漆黒の釉薬が施されているが、光が当たることで立体感が浮かび上がり、ビロードのような艶が生まれている。また光と影は、色やかたち、質感などの工芸作品を生み出すさまざまな要素にも強く作用。麻布が藍色に美しく染まる福本潮子の《時空3》では、藍甕に布を浸ける深さと回数をコントロールし、境界に見事なグラデーションを生み出すことに成功している。藍の深さが白の存在感を際立たせ、まるで布そのものから光が放たれていると思うほど輝かしい。

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中央:高橋禎彦《花のような》(2004年) ホットワークに分類される技法によって作られた作品。ガラスを高温で熱し、水あめのように溶けた状態で素早く作業する必要があるという。

金属やガラスを素材にした作品でも光と影はさまざまな表情を見せている。高橋禎彦の《花のような》は、クリアなガラスの上に純白のガラス、さらにクリアなガラスを被せた3つの層からなる作品だ。ある程度かたちを作ったガラスのボディの上へ異なる色のガラスを重ねる技法で作られ、ピタリと密着した3層のガラスからは乳白色の光がほのかに滲み出している。丸みのある粒の集まった黄色のパーツの蓋もかわいい。このほか館内の「芽の部屋」ではイサム・ノグチの《AKARI》で設えた光と影の体感スペースを展開し、剣持勇の《丸椅子》などに座りながら、光の彫刻が築く時間をリラックスしながら過ごせる。

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左:岩田藤七《彩色壺》(1935年)、右手前:鹿島一谷《布目象嵌蛙と野草文銀朧銀接合せ壺》(1991年)、他:中島直美《Nature’s Talk 2005 - grenouille -》(2005年)

光と影のグラデーションがかたちづくる生き物のモチーフを追いかけたり、異なる素材や時代の違う作品が取り合わせになる様子を見るのも面白い。鹿島一谷の《布目象嵌蛙と野草文銀朧銀接合せ壺》の周りには、蛙を絹とシルクスクリーンで表した中島直美の《Nature’s Talk 2005 - grenouille -》が壁を這うように広がっていて、蛙たちによる賑やかな競演を目にすることができる。そして最後に触れたいのが、移転前の東京で人気だったスタンプラリー付きの「セルフガイド」と、絵と言葉で作品の見どころを他の鑑賞者に伝えるワークシート「みんなでつくる工芸図鑑」がコロナ禍を乗り越えて金沢でリスタートしたことだ。この夏は「工芸ってこんなに親しみやすかったんだ…」と思うような『おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展』へとぜひ出かけたい。

所蔵作品展 『おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展』 

開催場所:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)
開催期間:開催中〜2024年8月18日(日)
https://www.momat.go.jp/craft-museum/