東京・日本橋で「cafe & gallery art-ANATOMIA」がオープン。MASARU OZAKIの個展を開催

  • 写真・文:さつま瑠璃
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「cafe & gallery art-ANATOMIA」の瀟洒なロゴがお出迎え。

 

2024年5月9日、東京・日本橋で「cafe & gallery art-ANATOMIA」がオープンした。アナトミア、の名は解体新書を意味する『ターヘル・アナトミア』に由来し、アーティストの“見えない部分”を探ることで“アーティストを解剖する”ような感覚を得られる場を目指している。

同日、アーティスト・MASARU OZAKIによる展示『ライト・アンド・フラクチュエーション』が開幕した。「光とゆらぎ」や自然との対話を通じて、物理的な形態と儚い美しさの間の相互作用を探求する試みだ。会場の様子や作品について、作家本人の言葉を織り交ぜながらレポートしよう。

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会場となるcafe & gallery art-ANATOMIA

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最寄りの新日本橋駅から6番出口を出て歩けばすぐそこ。閑静な通り沿いに、白壁の建物が見えてくる。開いた扉に誘われるようにして中へ入ると、パタパタパタ、とすばやく繰り返される機械仕掛けのような音が響く。

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MASARU OZAKI《Digital Analogy(Binary Illusion)》2023

規則正しく並んだ黒いパネルの一部が白く変わる、その形や動きはボールのようだ。しかし、MASARUさんは「よく見てください。実は、ボールはどこにも描いていないんですよ」と話す。「7個のセグメントのデジタル数字の形だけ追いかけると、真円になる瞬間は一度もない。けれども、過去にアートフェアでこの作品を展示したときに、子供たちが見て『ボールだ』と言ったんです。なぜボールに見えたか聞いてみると、『僕が知っている動きだから』と言うんですよ。これはすごく正しくて、まさにこの作品は鑑賞者の中にあるボールの記憶をここに無意識を繋げる作業をしている」

まるでボールのように跳ねる白い模様は、つい目で追いかけたくなる。そして、目を閉じてみると、パネルが動く音の微かな方向や大きさから音が移動していることに気づく。「音の移動が見えるんですよ。だから鑑賞者は、音を見て動きを聞いている」それこそが、MASARUさんの作品が表現する「ゆらぎ」のひとつなのだ、と知る。

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MASARU OZAKI《Way to Go》2022

同じように球体を思わせる形が枠組みの中を移動する《Way to Go》をはじめ、彼の作品はデジタルアートのように見えるが、決してそうではない。「これらの動きは、僕が全部手作業で動きを作っているんです」とMASARUさんは解説する。「人がアナログでつくることで生まれるズレや不正確さに実は美意識や美しさがあり、その正体は何なのかを僕は作品で伝えようとしている」

聞くと、このように動きの美しさを彫刻や立体作品として表現するモーション・アートは、まだ他にあまり例がないそうだ。

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ふと心安らぐ日本的な情緒

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『ライト・アンド・フラクチュエーション』会場風景より
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MASARU OZAKI《Just around the corner》2019-2024

《Just around the corner》は何とも不思議な作品だ。両手のひらに収まりそうな立体に、雨降る風景を思わせる映像が投射されている。まるで小さなプロジェクションマッピング。ところが、プロジェクターがどこにあるかパッと見ただけではわからない。この特殊な技法は、現在特許も申請中の独自性の高いものだという。

この雨もCGの計算で描写されたものではなく、鉛筆を使った細密画を使いモーションを生み出している。デジタルの装いをしているが、実はやっていることは非常に繊細な、手作業の儚い美しさを表現している。日本的な侘び寂びに近い精神を感じるこれらの作品が、実際に茶室に飾られることがあるというのも頷けた。

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MASARU OZAKI《COSMIC SYNC》2024

それこそ「和」を思わせる《COSMIC SYNC》は、障子越しの灯りのように穏やかな光に心安らぐ。格子状の木組みに沿って黒い球が転がっていくような様は、レトロなピンボールゲームを連想する人がきっと多いだろう。数百回、あるいは数千回に1回ほどの低確率で特殊な動きをすることもあるのだとか。細部までこだわった美しさの中に、遊び心を感じられるのが楽しい。

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立てかけられたネギに込めた思い

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MASARU OZAKI《緊張と均衡》2024

 

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『ライト・アンド・フラクチュエーション』会場風会より

これらの作品群が並ぶ中で、初めて見るとなぜここに?と思うのが《立てかけられたネギ》だ。縦長のオブジェに映し出される緑色のネギが2本。そして、展示会場の片隅には同じものが実際に立てかけられている。本当にネギがそこにあるかのようだ。

モーションを駆使した他のアート作品とは異なるように見える。しかし、静止画に見える一つ一つの光の要素は、人間の目では捉えきれないほどの高速で色が変化している、というから驚きだ。 

この作品にはMASARUさんの願いが込められている。「ネギの花言葉は『笑顔』。現在は本物のネギとほぼ同じ大きさだけど、いつか大きなものを制作して、街中のビルに寄りかかるようにしたり、ショッピングモールの外観などに展示したりして、人々の日常空間に溶け込ませたい。海外の方々にもこの植物が『笑顔』という美しい花言葉を持っていることを知ってもらって、世界中に笑顔が広がるようなプロジェクトを展開していきたい」

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MASARU OZAKI氏と小澤茉子氏

展示は6月30日(日)まで開催中だ。会場で実際に見てみれば、アナログの動きや微かな移り変わりの繊細さを体験しながら楽しめるだろう。

今後も「cafe & gallery art-ANATOMIA」では、さまざまな企画を準備している。運営を担う株式会社POP ROCK代表取締役の小澤茉子氏は、「このギャラリーは、アートを好きな人も、あまり馴染みのない人にも楽しんでいただける場にしたい。作品を鑑賞するのはもちろん、制作背景やストーリーも伝えることで、新しい価値観との出会いや発見を楽しんでもらえたら嬉しい」と語った。アートギャラリーが数多く点在する日本橋の新スポットに、今後もぜひ注目してほしい。

ライト・アンド・フラクチュエーション

開催期間:2024年5月9日(木)〜6月30日(日)
会場:cafe & gallery art-ANATOMIA
東京都中央区日本橋本町4-7-5
TEL :03-6824-6522