“世界初”も含めた63の複雑機能を持つ、ヴァシュロン・コンスタンタンによる革新的なパーペチュアルカレンダーが完成

  • 文:柴田 充
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特別な顧客からのオーダーに応える専門部署キャビノティエが開発製造した世界に1本の時計「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」。98mmのケース径に50.55㎜厚、重量は980gに及ぶ。

今年ジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダースで時計愛好家の熱い注目を集めたのが、ヴァシュロン・コンスタンタンが発表した「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」だ。世界初の中国暦パーペチュアルカレンダーをはじめとする63の複雑機能を備え、世界記録を樹立した。それは、人間の時への好奇心と飽くなき創造性の挑戦であると同時に、人と人との強い絆から生まれた傑作である。

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スプリットセコンド・クロノグラフに、時刻はレギュレーター式で青い指針で上から時分秒を差す。左右に十干と十二支を中心にしたインジケーター、上に月相と月齢、下には2021年から20年間の正月の日付を表示し、9枚のディスクを交換することで2200年まで正確に表示する。

「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」は、完成までに11年がかけられた大作だ。搭載する63の複雑機能のなかでも、特筆すべきは中国暦のパーペチュアルカレンダーである。

中国暦は、太陽暦であるグレゴリオ暦とは異なる、ギリシャ暦やヘブライ暦、ケルト暦と同様、太陰太陽暦に基づく。新年は冬至の後の2番目の朔(ついたち)の日である1月21日から2月21日までの間で毎年変動して始まり、ひと月は新月の日(朔)から、月の満ち欠けに従って29日か30日が不規則に続く。そのため12朔月は太陽年に対して11日短くなり、これを同期するには2〜3年毎に13カ月目になる閏月を加えなければいけない。

そしてギリシャの天文学者メトンが発見したメトン周期によって、ゴールデンナンバーと呼ばれる19年間に7回の閏年が挿入される。さらに五行(木、火、水、金、土)とそれぞれに陰と陽を加えた10日の符合である十干と、日本でも馴染みのある十二支を60通りで組み合わせた60干支という時の単位も大きな特徴だ。これだけ複雑かつ不規則な暦とあって、これまで機械式時計での計時は実現してはいるものの、パーペチュアルカレンダーとしては世界初の偉業なのである。

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裏側の文字盤には、3軸アーミラリトゥールビヨンとグレゴリオ暦のパーペチュアルカレンダー、24都市のワールドタイム、スカイチャート、日の出/日の入り時刻、均時差表示などを備え、外周には日本でも馴染みのある24節気を表示する。

ではこの超複雑機構に時計師たちはどのように挑んだのか。まず取り組んだのは中国暦のアルゴリズム化であり、パリの天文台が所蔵する中国暦に関する書物と、発表された2044年までのデータの基準値を専用ソフトでパラメーター化し、さらにこれを機械的な機構に置き換えるための独自のデータ入力により2200年までの不規則性について解析と検証をした。

その計算結果を踏まえ、月の満ち欠けと太陽の動き、メトンという3つの周期を同期表示する構造を設計することで、2200年まで調整せず、正確に中国暦を表示するパーペチュアルカレンダーを実現したのだ。

これに加え、さまざまな革新的な複雑機構を搭載する。サイレントモードが設定できるグラン/プチ・ソヌリとアラーム、スプリットセコンド・クロノグラフ、グレゴリオ暦パーペチュアルカレンダー、ワールドタイマーなどに加え、脱進機には球体ヒゲゼンマイを備えた3軸アーミラリトゥールビヨンを採用する。しかも精度においては、レトログラード表示を採用した秒針の帰零速度までも想定制御し、クロノメーター基準を遥かに上回るという。2877個の部品、245石のルビー、31本の指針、9枚のディスクで構成され、ムーブメントの組み立てだけでも12カ月以上が費やされたというのもうなずける。

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裏面の内部には、アーミラリトゥールビヨンほか、外周には5本のゴングと5個のハンマーで鳴らすカリヨン・ウェエストミンスター・チャイムを備える。この自社キャリバー「3752」は、「リファレンス57260」に搭載されたキャリバー「3750」をベースにしているが、追加機構などさらに精緻を極めた。

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「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」は、ヴァシュロン・コンスタンタンの専門部署キャビノティエが手掛けたシリーズ第2作でもある。前作は、メゾンが創業260周年を迎えた2015年に発表された「リファレンス57260」だ。完成に8年をかけ、ユダヤ暦のパーペチュアルカレンダーを含める57種類の複雑機能を備え、当時の世界記録を樹立した。新作はこれに次ぐ中国暦という世界的な暦への新たな挑戦であり、自らが打ち立てた記録を超えたのである。

実は両作は同じ3名の時計師が担当し、しかもそのうちの2名は実の兄弟でもある。兄がムーブメントを組み立て、弟が中国暦の不規則性の解析と構造設計を担当。西欧とは異なる中国の文化や生活習慣を理解した上で、天文学に関わるデータを分析し、さらに検証を続けるというプロセスは、通常の時計機構の開発とは異なり、それこそ手と頭のような信頼関係がなければできなかったという。

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あまりの緻密さに加え、マットなサンドブラスト仕上げブリッジはわずかな傷でも跡が残りやすく、時計師はキャリバーの組み立てだけでなく、パーツの仕上げもすべて自ら行なった。それだけ手間をかけ、ジュネーブ・シールも取得する美しさでありながらも、トゥールビヨンの開口部以外は見ることはできない。
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キャリバーは、地板(表=上段右、裏=下段左)にクロノグラフのプレート152(上段中)、中国暦パーペチュアルカレンダーのプレート352(上段左)、グレゴリオ暦パーペチャルカレンダーのプレート252(下段中)、天文学的表示のプレート552(下段右)を積層する。ふたつの香箱を設け、手巻き式で約60時間のパワーリザーブを備える。

そしてもうひとりのキーパーソンがこの2作の製作を依頼したウィリアム・バークレーだ。公表では米国の実業家および慈善家で、半世紀近くにわたって貴重な懐中時計をコレクションする時計愛好家とされる。ヴァシュロン・コンスタンタンがエジプト王ファールーク1世のために1946年に製造した懐中時計も所有し、こうした信頼関係を長年培ってきたからこそ前述の「リファレンス57260」や今回の「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」が生まれたといえるだろう。

モデル名を「バークレー」と命名したのもそんなリスペクトと感謝の証だ。2作を合わせれば20年近い年月は、関わったそれぞれの人生においてもけっして短い時間ではない。それだけの情熱と不屈の精神を注ぎ、誕生した「レ・キャビノティエ ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」は時の芸術であり、後世に残すにふさわしい。そしてそこに1755年の創業以来途絶えることなく時計製造を続けるヴァシュロン・コンスタンタンの深遠を感じざるを得ないのだ。

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キャビノティエが手掛けるユニークピースの大半はプライベートコレクションのため、7割は一般公開されない。50人のスタッフには、4人の時計師と2人のデザイナー、管理スタッフ、PRやマーケティングチームが在籍し、コストや製作期間も制限されることなく、独自のウォッチメイキングが行われる。

 

 

 

ヴァシュロン・コンスタンタン

TEL:0120-63-1755
www.vacheron-constantin.com