ラドーと7年ぶりのコラボを果たした、アンリアレイジ・森永邦彦が考えるウォッチデザインの醍醐味

  • 文:柴田 充
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森永邦彦●1980年、東京都生まれ。2003年にアンリアレイジ設立。最先端のテクノロジーを取り入れた近未来的デザインを手掛ける。日常と非日常をテーマに異分野とのコラボレーションを積極的に行う。

これまで数多くの著名デザイナーとコラボレーションを展開してきたラドーが新たなプロジェクトを発表した。今回タッグを組んだのはファッションデザイナー、森永邦彦だ。自身のブランド・アンリアレイジでは、最先端テクノロジーを取り入れたデザインアプローチでさまざまなアイテムを発表する。ラドーとのコラボレーションは2017年に続く第2弾。この間、両者の間でどのような進化と深化があったのか。注目の新作とともに森永のクリエイティビティを探る。

丸型からスクエア型へ、新たなコラボモデルが誕生

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ラドー トゥルー スクエア × 森永邦彦 スペシャル エディション ウォッチ/ラドーが1986年に時計に初導入したハイテクセラミックで、美しい角形ケースと一体感あるブレスレットのデザインを具現化する。自動巻き、ハイテクセラミックケース&ブレスレット、ケース径38㎜、パワーリザーブ約80時間、シースルーバック、5気圧防水。¥423,500

1917年に創業したスイス時計の名門・ラドーの名を広く知らしめるのが「マスター・オブ・マテリアル」の称号だ。60年代初頭にハードメタルをいち早く時計に採用し、以降もハイテクセラミックをはじめ、セラミックの複合合金セラモス、メタルの光沢を実現したプラズマハイテクセラミックなどを開発し、先進素材ならではの耐傷性や軽量性、発色といった特性を追求してきた。

こうした素材のパイオニアとともに、既成概念に囚われないデザインへの取り組みもブランドのDNAになっている。いわば素材も理想のデザインを具現化するための手段のひとつであり、両者が両輪となってブランドの創造性がさらに前進するのだ。

独創的なデザインは、インハウスはもちろん、さまざまなコラボレーションから生まれてきた。ジャスパー・モリソン、コンスタンティン・グルチッチ、アルフレッド・ハベリなど著名デザイナーが名を連ね、森永邦彦もそのひとりとして2017年に「ラドー トゥルー シャドー」を製作。フォトクロミック技術を採用した画期的なデザインが大きな話題を呼んだのだった。

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2017年に発表した「ラドー トゥルー シャドー」。フォトクロミック技術を初採用し、文字盤はブラックからスケルトンに変化する。特に海外から注目を集め、1001本の限定販売だったため、発表後即完売した。

フォトクロミックとは、太陽光に含まれる紫外線によって分子量が変わることなく色調や濃度が変わり、可逆的に変色・退色する素材技術で、一般的には調光レンズなどで知られる。これを時計の風防に用い、光の変化に反応して文字盤が透明からブラックへと変わる。自然界の移ろう光に時を感じるのは日本的な感性であり、同時に「目に見えないものを見えるようにする」という森永の理念にも合致するのだ。

ラドーは現在、角形ケースの人気コレクション「ラドー トゥルー スクエア」をテーマにデザインコラボレーションするプロジェクトも立ち上げており、森永はじめ、5人の世界的なデザイナーがクリエイティブのキャンバスとしてこれに取り組んでいる。前回の成功を受け、大きな期待と注目の中、森永との最新作は発表された。

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注目はフォトクロミック技術の進化

前作の丸型に続く角形であり、そのフォルムや全体の印象は奇をてらわず、ベースモデルとほぼ変わらない。だが紫外線を当てると、暗所ではムーブメントをあらわにしていたスケルトン文字盤がブラックに一転した。まるで日が昇り、躍動感ある白い針が時を刻み、日が沈むにつれ、再び静かに時計の鼓動を伝えるようだ。森永は言う。

「光によって時計の心臓部が見え隠れする境界をつくろうと考えました。人間は太古、光によって時の流れを感じ、それが時計の起源になったと思います。そこで時計の針が示す数字を見て時を知るのではなく、光の移ろいの中で時間の本質的な部分が感じられるものにしたかったのです」

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周囲の光の加減によって文字盤はブラックからスケルトンに移り変わる。時分秒針は夜光塗料の白いスーパールミノバでコーティングされているため、変化する文字盤に関わりなく視認性を確保する。

それは昼と夜の境界と同時に、光と影の境界でもあり、それぞれが微妙に移り変わる。リアルとアンリアル、日常と非日常の境界を表現し続けてきたクリエイターならではのデザインだ。

そのコンセプトは前作から変わらないものの、角形に対するデザインは異なり、ムーブメントの周囲には放射状に細かなペルラージュ装飾を施し、光が回るような演出効果をもたらしている。そしてなによりも大きな変化は、やはりフォトクロミック技術の進化だったそうだ。

「私たちがこの技術に取り組んでちょうど10年になりますが、よりスピーディに色が変わったり、さらに深い黒が表現できるようになりました。黒という色は、色料の3原色のCMYすべてが混じった色で、それぞれが同じ速度とタイミングで変わることで初めて黒になります。その深い黒を作るというのは大きなハードルではありました」

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「ラドー トゥルー スクエア × 森永邦彦 スペシャル エディション ウォッチ」は耐傷性に優れ、美しいポリッシュ仕上げを損なうこともない。

ファッションとは異なるテクノロジーの進化の時間軸に向き合い、それを取り込むウォッチデザインに面白さや醍醐味を感じるという森永。

「たとえばスマホは誰かと同じものを使っていても嫌悪感はありませんが、洋服だとちょっと気まずいし、時計もそうですよね。それだけファッション寄りでありながら、ジュエリーやガジェット的要素もある。それぞれの接点に触れる腕時計という存在は、とても興味深いですね」

その上で、時間というのは自分にとって非常に大切な概念であると語る。

「実は国鉄マンだった祖父がラドーを愛用していたんです。新幹線の開発部署でスピードを追求する当時の先端テクノロジーの世界で、楕円形のラドーをいつも着けていました。ラドーに関わることになり、ずっと頭にあった幼少期の記憶が、改めていまの自分と結びついたんです。時というのはいろいろなものの"境界"をなくす概念だと思います。たとえば、5年、10年という時間がかかることで日常が非日常になってしまったり、その逆もあります。もっと生命的なところでいえば、花が咲き、種を残し、そこに時間が介在して再び花が咲くということもそうです」

社会を規則づける「絶対的な時間」に対し、「個人の感じる内なる時間」という2種類の時間があることを実感するという。そうした、よりパーソナルな時を大切にしたいという思いもこの腕時計には込められている。

ラドー

www.rado.com
TEL:03-6254-7330