人工雲で太陽を遮断…米研究チームが初の屋外試験を実施 環境を操る「ジオ・エンジニアリング」

  • 文:青葉やまと

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アメリカの研究チームが地球温暖化対策として、人工雲を利用した太陽光遮断技術を開発している。西海岸サンフランシスコのベイエリアで4月上旬、屋外での初試験が開始された。

このプロジェクトは「マリン・クラウド・ブライトニング」と呼ばれる。海上の雲に塩の粒子を混ぜ込むことで、雲の成分を人工的に変化させ、太陽光の反射率を高める。宇宙から降り注ぐ光をより多く跳ね返すこととなり、結果として大気や地表の温度を下げる効果が期待されている。

本来の自然の状態においても、地球は一部が雲に覆われており、太陽光線を宇宙空間へと反射している。雲の反射率を人工的にさらに高めれば、より効果的に気温を抑制できるという発想だ。

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空母からエアロゾルを噴射

今回の実験は、米ワシントン大学率いる研究チームが行った。退役した空母「ホーネット」の甲板上に専用の噴霧器を設置し、エアロゾルの状態に処理した海塩の粒子を放出。海洋上の比較的低い位置に浮かぶ雲に届くよう試みた。

米ワシントン州のシアトル・タイムズ紙は、実験の様子を写真入りで報道。ホーネットの甲板に人工降雪機のような装置が1台設置され、水平からやや上方に向けて純白の気流が放出されている。この気流に海水由来のエアロゾル状の塩が含まれている。

噴射された気流が直接届く範囲は、最大で高さ3mほど、水平距離は数十mほどに見える。だが、エアロゾルは大気に乗って拡散し、低層の雲の形成に影響すると想定されている。

4月から継続的にテスト

実験に同行した米ニューヨーク・タイムズ紙は、4月2日の午前9時にマシンが始動したと報道。「人工降雪機のような装置がゴロゴロと音を立て始め、耳をつんざくような大きな音がした」と述べている。吹き出し口からはエアロゾルが霧状に噴出され、空中に消えていった。

テストは4月に開始したばかりで、今後継続的にデータを収集する。大気学者であり、本プログラムの責任者を務めるサラ・ドハティ氏は、「社会が必要とする場合に備え」、こうした技術の実現可能性を確認しておくことは必要不可欠であると述べている。

プログラムは、海洋上の低層雲の反射率を意図した通りに高めることが可能かどうかを確認する。また、今後世界各地で実施する場合、地域や世界の気温や降水量、気候にどのような影響を与えるかを把握したいねらいだ。

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温暖化抑える「SRM」の一手法

現在、気候変動を抑制するため、太陽放射修正(SRM)と呼ばれる分野の研究が進んでいる。地球に降り注ぐ太陽光のうち、宇宙へと跳ね返される割合を増やすことで温暖化を抑える手法を指す。

マリン・クラウド・ブライトニングは、この太陽放射修正を実現する手法のうちの一つだ。より広義には、「ジオ・エンジニアリング」とも呼ばれる。気候変動抑制のため、人為的に気候システムを改変する行為をいう。

地球温暖化を抑制する本来の方法は、温暖化ガスの排出を削減することにある。しかし、現状のペースで排出が続く場合、産業革命前に比べて気温上昇を1.5度以内に抑えるという国際目標の達成は困難だ。

一方で、マリン・クラウド・ブライトニングの手法にも課題は残る。ワシントン大学は、本プロジェクトの実施を発表するプレスリリースのなかで、「しかし、このような介入を検討する前に、それ(マリン・クラウド・ブライトニング)が気候システム、海洋、陸上生態系にどのような影響を与えるか、十分に理解することが重要である」との認識を示している。

同大学の研究チームとしては、本手法を積極的に推進したい意向ではないという。将来的にやむを得ず必要になった際に備え、本手法が現実的か、事前に判断を付けておきたいねらいだ。気候対策の切り札となるだろうか。

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【動画】空母ホーネットの甲板から塩のエアロゾルを放出。