カントリーとR&Bが源流の、可憐で尖った稀有な傑作

  • 文:山澤健治(エディター)

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【Penが選んだ、今月の音楽】
『アンダードレスト・アット・ザ・シンフォニー』

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1997年、アメリカ・ジョージア州アトランタ生まれ。2013年、16歳でカントリー作『ラン&テル』を発表。ヒップホップ系レーベル、オーフル・レコーズから発表した17年の2作目が注目を集め、以後着々と評価を高めるシンガー・ソングライター。写真家やモデルとしても活動する才女。 photo: Michael Tyrone Delaney

世界の潮流を生み出すアメリカの音楽シーンでは、2024年に入ってもなおカントリー・ミュージックの躍進が止まらない。保守的なイメージの強い音楽だが、多様化は進み、もはや聴き手は白人層だけに限らず。しなやかな感性をもつ都会のZ世代リスナーにも支持されている。カントリーをポップ・ミュージックへと拡張させたテイラー・スウィフトが時代の顔として君臨しているのも、その躍進を下支えする要因といえるだろう。

カントリーからポップフィールドへ。テイラー・スウィフトの歩みをなぞるようなアーティストも多い中、異彩を放つのがジョージア州アトランタを拠点に活動するシンガー・ソングライター、フェイ・ウェブスターだ。16歳でカントリー歌手としてデビューしたフェイだが、ブラック・ミュージックの中心地アトランタで黒人文化に触れて育った出自を活かし、2作目以降はカントリーとR&Bが融合し、インディ・ロック色も加わった独自の音楽性の開拓に成功した。

5作目となる新作『アンダードレスト・アット・ザ・シンフォニー』もまた、そんなフェイの魅力が詰まった傑作だ。カントリー由来の流麗なメロディや意匠ともいえるペダル・スティールの艶やかな音色が楽しめる一方で、モダンなR&Bのプロダクションやソングライティングを同時に味わえるのはフェイの作品ならでは。かき鳴らされたギター・リフと対比するような親密でどこか物憂げな歌声には、今回初めてボコーダーで歪みを施す遊び心も見せている。学校の同級生だというラッパー、リル・ヨッティがドラッギーなバースを聴かせる曲もあれば、モダンなラブソングやうっとりするほど瞑想的な美曲もある。そのすべてが等身大のフェイの分身たちだ。こんな可憐で尖った作品、滅多に聴けるもんじゃない。

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フェイ・ウェブスター ビッグ・ナッシング SC491JCD ¥2,750

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。