幻想的かつ非日常な空間を描いた、デ・キリコの貴重な作品群

  • 文:河内タカ(アートライター)

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『オデュッセウスの帰還』1968年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団 © Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

画家ジョルジョ・デ・キリコが生み出した不思議なスタイル、それが「形而上絵画(けいじじょうかいが)」と呼ばれる絵画だ。形而上とは「かたちのないもの、超自然的なもの」という意味だが、簡単に言えば目に見えるものやかたちのあるものを描くのではなく、その奥に潜むものを表現したような絵である。デ・キリコの絵は、普段は大勢の人が集まる広場に人影がなく、そこに輪で遊ぶひとりの少女、顔のないマヌカン(=マネキン)、人の影や彫像などが描かれている。その風景はどこか不思議な静寂感に包まれていて、昔どこかで見たことのあるような風景でもあるし、それが夢だったのか映画のワンシーンだったのかも定かでない。歪んだ遠近法や室内に屋外の風景を描くなど辻褄の合わない設定もあいまって、一度目にしたら頭から離れず、人間が潜在的に抱えている不安や郷愁を覚える人もいるのではないだろうか。

日本では10年ぶりとなる大規模な本展は、「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」といったテーマに分けてデ・キリコの魅力を紹介する。生涯描き続けた自画像や肖像画、サルバドール・ダリやルネ・マグリットをはじめ多くの画家たちを驚かせたという1910年代の形而上絵画、ルネサンス期やバロック期の絵画に傾倒した作品、晩年の「新形而上絵画」など、世界各地から集められた約100点によって構成される。また絵画だけでなく、多くは制作されなかった彫刻、挿絵、舞台衣装用のデザインも含まれ、約70年にもおよんだ幅広い創作活動を俯瞰できる。

子どもの時から霊感が強く、毒舌家で変わり者だったデ・キリコ。そんな強烈な個性を持った画家が、生涯創作し続けた奇妙で不穏な世界観は、時代を超え観る者の心の奥に忍び込み、まるで白昼夢のような心象風景を残すはずだ。

『デ・キリコ展』

開催期間:4/27~8/29
会場:東京都美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分~17時30分(金曜は20時まで) ※入室は閉室の30分前まで
休館日:月曜日、5/7、7/9~16 ※4/29、5/6、7/8、8/12は開室
料金:一般¥2,200
https://dechirico.exhibit.jp
※9/14~12/8(予定)まで神戸市立博物館に巡回

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。