新国立劇場バレエ団の公演『ラ・バヤデール』が4月27日に開幕する。前回2019年の上演から5年ぶりとなるレパートリーは、同バレエ団を代表する演目のひとつ。そもそもロシアで19世紀に初演された古典バレエの珠玉作を牧阿佐美・元舞踊芸術監督が改訂振付したものだ。スペクタクルな舞台展開に加え、魅力的で多彩な配役も見逃せない。
『ラ・バヤデール』はクラシックバレエ振付の巨匠マリウス・プティパが1877年に発表した作品だ。音楽はレオン・ミンクス、ロシア帝室バレエ団によりマリインスキー劇場で初演と、最初のヒストリーからして伝説的な名前が並ぶ。他のプティパ作品と同様に名だたる振付家がその後に改定版を手掛けており、英国ロイヤル・バレエ団の演目であるナタリア・マカロワ版、ボリショイ・バレエのグリゴローヴィチ版、パリ・オペラ座のヌレエフ版などが知られている。
新国立劇場バレエ団が2000年11月に初演したのが、牧阿佐美による改訂振付版。酒井はな、小嶋直也らが出演した新作はバレエ団の主要レパートリーとなり、その後2003年、2008年、2011年、2015年、2019年と定期的に再演されている。まさにバレエ団が誇る珠玉作なのである。

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『ラ・バヤデール』の各バージョンの大きな違いは使われるテクニックだけの問題ではなく、物語の解釈によってはっきりと分かれる。牧阿佐美版の最大の見せどころは、終盤からエンディングに向かう盛り上がり方といってもいいだろう。大がかりな装置が見せる一大スペクタクルと、究極のカタルシス。新国立劇場の舞踊芸術監督である吉田都は「牧阿佐美元芸術監督が新国立劇場で初めて改訂振付された『ラ・バヤデール』は、世界に誇るべき美しいプロダクションです」というコメントを出しているが、実に的を射ている。
物語は南インド、ラジャ(王)が治める架空の国を舞台にしたものだ。大寺院の舞姫(バヤデール)であるニキヤは、ラジャに使える戦士ソロルと恋仲にある。一方、寺院の大僧正はニキヤに横恋慕。そして王の娘のガムザッティはソロルに心を奪われ、王に逆らえないソロルは結婚を承諾してしまう。絶望のなかニキヤは毒蛇に咬まれ、大僧正が差し出す解毒剤を振り払って命を落とす。ソロルは取り返しのつかない後悔の中、夢の中の世界でニキヤと再会する。そして目覚めた時、寺院は轟音とともに崩壊していく。
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オリジナルの振付であるプティパ版を含めすべての版で共通しているのは、ソロルの夢の中、影の王国だ。ニキヤの幻影たちによる群舞は、クラシック・バレエ最高の名場面のひとつとして名高い。牧阿佐美版ではその踊りを、舞台上に九十九折りのスロープをつくり、「アラベスク・パンシェ」と呼ばれるステップを繰り返しながら下らせるという驚異的な演出を施した。平面上ではなく高低差をつけた三次元的な振付はいまも斬新であり、しかも極めて美しい。
その後の寺院崩壊のシーンは、例えばヌレエフ版などでは省かれて結末を迎えるのだが、牧阿佐美版は影の国の息を呑むようなスペクタクルのテンションを保ったまま一気に大崩壊へと続く。心躍る一連の編曲を担当したのは、実はヌレエフ版の編曲も手がけた故ジョン・ランチベリ―。もはや日本のナショナル・バレエの至宝となったとも言える作品は、必見である。
ニキヤ、ソロル、ガムザッティという主要三役の毎回のキャスティングの多彩さが楽しく、どの回も観たくなるのが今回の公演だ。小野絢子のニキヤ、福岡雄大のソロルは前回2019年もパートナーを組んでいる安定のペア。一方、ニキヤを米沢唯、ソロルを渡邊峻郁、ガムザッティを木村優里が演じる2回も初めての組み合わせで興味深い。
柴山紗帆のニキヤ、井澤駿のソロルも、2019年公演で役との相性は証明済み。一方で初めて新国立劇場バレエ団の『ラ・バヤデール』を踊ることになる直塚美穂、廣川みくり、速水渉悟のフレッシュな踊りにも期待したい。
新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』
公演日:4月27日〜5月5日
会場:新国立劇場
TEL:03-5352-9999
www.nntt.jac.go.jp/ballet/labayadere