連載「腕時計のDNA」Vol.6
各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。
世の中にこれだけ多くの時計があっても、名作と呼ばれるものは数少ない。しかもその多くは20世紀に誕生したもので、機械式が復権した今世紀以降に登場した時計は限られる。だがその中でもウブロは傑出した存在といっていいだろう。ブランドの創業は1980年だが、2005年に登場した「ビッグ・バン」が中興の祖となり、まさにコンテンポラリーウォッチの金字塔になった。それは稀代のウォッチプロデューサーの手によって生まれ、独自のコンセプトを揺らぐことなく貫き、熟成と進化を続ける。この3本から、常に次代を見据えた革新のDNAを読み取ることができるだろう。
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新作「ビッグ・バン ウニコ グリーン SAXEM」
「The Art of Fusion」の始まりがここに
現代は"ウォッチプロデューサー"の時代といわれる。従来の時計師やデザイナーとは異なり、時計の技術やデザインはもとより、ビジネスにも精通し、先端テクノロジーや最新トレンドにもアンテナを張る。そしてより細分化し専門化するプロセスを取りまとめ、理想の時計に一元化する役割を果たす。ウブロにおいてそれを担ったのがジャン-クロード・ビバーだ。時計業界の最重要人物のひとりであり、2004年にCEOに就任するやリブランディングに取り組んだ。そこから生まれたブランドコンセプトが「The Art of Fusion(異なる素材やアイデアの融合)」であり、「ビッグ・バン」がその嚆矢となったのだ。
それまでのブランドのデザインコードは残しつつ、異なる素材を組み合わせた先進性をより先鋭化し、独創的なサンドウィッチ構造のケースとさらなる異素材を融合した。
以降、自社ムーブメントなど魅力に磨きをかける一方、素材開発に力を注ぎ、「ビッグ・バン ウニコ」の最新作ではケースにグリーン SAXEM(サクセム)を採用した。美しい発色と透明度は唯一無二。大胆な発想と先進テクノロジーでウォッチメイキングをリードし、時計愛好家を魅了し続けるブランドの本領発揮である。
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定番「クラシック・フュージョン オリジナル イエローゴールド」
ブランドのオリジンを汲む一本
もともとウブロは、イタリア屈指の時計宝飾グループであるビンダ一族のカルロ・クロッコが創業し、洗練されたイタリアンデザインを特徴にした。具体的には、ブランド名であるフランス語の「ウブロ」が意味する「舷窓」(船の丸窓)を想起させる、ビスを配した存在感あるベゼルやその左右に張り出した凸部であり、ストラップをビス留めした長方形のラグである。こうしたデザインコードを「ビッグ・バン」で換骨奪胎したのに対し、「クラシック・フュージョン」はオリジナルをより忠実にモディファイする。特に「クラシック・フュージョン オリジナル イエローゴールド」は、かつての面影を色濃く残すとともに、その魅力を際立せている。
高級時計の象徴であるイエローゴールドのケースに、従来のスポーツウォッチで多用されたブラックラバーストラップを組み合わせ、見た目の斬新さに加え、アクティブかつ絶妙なフィット感を生む。そのゴージャスなカラーコントラストに、インデックスを省いた黒文字盤がドレッシーさを添える。オリジナルでは12本だったベゼルビスは6本になり、面を強調したケースはよりマッシブな印象を与える。それも「The Art of Fusion」のコンセプトが底流する現代的なアップデートだ。
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通好み「MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム」
最先端の技術を追求する実験的シリース
マニュアファクチュールピースを意味する「MPコレクション」は、ブランドにおける先端技術の追求を発表する、いわばオートクチュール的な存在だ。常識にとらわれない自由な発想からこれまで数多くの画期的な技術を発明し、10作目となる新作では独創的なリニアウェイトを搭載した。
文字盤や針もない、時計の概念を覆す透明なカプセル状のフォルムに、中央の回転シリンダーで時分を表示し、グリーンとレッドで色分けされたパワーリザーブを装備する。さらに底部には35度に傾斜したトゥールビヨンを納め、キャリッジの回転に合わせて秒を表示する。約48時間のパワーリザーブを備え、12時位置のリューズで巻き上げ、時刻合わせは裏蓋にあるリューズで行う。
計時を司る中枢に対し、その両脇に備えたのが新開発のリニアウェイト機構だ。一般的な円形ローターが回転運動するのに対し、これは左右の縦型ウェイトの垂直運動によってゼンマイを巻き上げる。
5年の開発期間をかけて巻き上げ機構から計時までを見直し、アヴァンギャルドなデザインにも関わらず、装着時の視認性に優れる。それは既成概念を越え、時と向き合う新たな感動を刺激してやまない。
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高級時計の可能性を追求し続ける
ウブロが革新したのは伝統的なウォッチメイキングだけではない。サッカーをはじめとするスポーツ、アート&ミュージックのカルチャー、ファッションやグルメといったライフスタイルとのコラボレーションを積極的に進め、その存在を広く知らしめる。さらに異なるジャンルとのパートナーシップが、ブランドに新たな発想や創造性の息吹を注ぐのはいうまでもない。それも「The Art of Fusion」の哲学であり、高級時計の可能性をより広げるのである。
柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。
LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ
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