実直でアツい蔵元が伝統製法で醸す、緻密でのびやかな味わいの芋焼酎【プロの自腹酒 vol.17】

  • 文:山内聖子
  • 写真:榊 水麗
  • イラスト:阿部伸二

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中村酒造場/なかむら

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多くの焼酎ファンに支持される蔵の代表銘柄。原料はすべて地元産で、芋は黄金千貫を使用。麹に使う米は、手間がかかるカルゲン農法で育てる地元の良質なヒノヒカリ(新米)を用いている。昼夜問わず行う手づくりの麹が味の肝で、芯のある緻密な酒質を形成する。「この酒はお湯割りの湯の割合を多くしても、風味がしっかり生きる」と布施さん。1800㎖ ¥3,450(実勢価格)/中村酒造場 TEL:0995-45-0214※実勢価格は編集部調べ

本格焼酎の魅力を発信する若いつくり手の伝道師として活躍している「ごち惣家(そうや) 」店主の布施知浩さん。店の仕事と並行するように、20年以上酒蔵へ通い、多くの蔵元と親交を深めてきた。なかでも芋焼酎「なかむら」は、布施さんが普段から愛飲している銘柄。長年、応援している思い入れがある一本だ。

「6代目で杜氏の中村(慎弥)くんは、まだ若い38歳ですが、昔からの製法を守り、代々受け継ぐなかむらの味をブレずにつくり続けているアツい男です。たとえば、麹づくり。いまはスイッチひとつで完成するドラム式の機械を使う蔵がほとんどなのですが、彼は木の麹蓋を使い、手間と時間のかかる手作業で麹をつくっています。そんな麹を使った酒は風格があり、他の蔵には真似できない唯一無二の味なのです」

特にお薦めなのがお湯割り。おいしくつくるコツは酒をドボンと入れないことだという。

「人が湯舟に入る時のようにゆっくり焼酎を湯に注いでください。乱暴に入れると酒がヒリヒリして荒いお湯割りになります」

まず酒器にお好みの量の湯を入れ、続いて焼酎を器の内側に沿わせるようにそっと注ぐ。すると、こっくりと甘いお湯割りになると教えてくれた。つるりと端正だった酒が湯に注がれることで芋の深い香りが立ち上り、ほのぼのした甘みが口に広がる。そんな酒をさらに美味くする、布施さんのおともは、ゆったりできるソファだ。

「考えるポーズになりがちな前屈みではなく、ぜひ背中をソファに預けて飲んでほしい。休日に、テレビを観ながらホゲーッと飲むのなんか最高です(笑)。世間にはいろいろな焼酎があり、それぞれによさがありますが、この酒はストレスなく身体にしみわたるのがいいですね」

ブレずに伝統製法を守る蔵元が手がけるお湯割りは、温かい茶を飲んだ時のように優しい。

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身体を後ろに預けながら、ゆったり無心に飲めるソファ

酒好きはつい酒の裏ラベルを見て前のめりになり、ウンチクとともに飲んでしまうが、「これはソファでゆるゆるしながら頭を空っぽにして味わってほしい」と布施さん。

布施知浩

全国の良質な食材の肴と地酒が美味い人気店の店主。日本の蒸留酒を気軽に飲み比べできるイベント「ジャパン・スピリッツ・フェスティバル」の代表も務める。

銀座 ごち惣家(そうや)

住所:東京都中央区銀座5-14-14 サンリット銀座ビルⅡ B1 
TEL:050-5596-8009

※この記事はPen 2024年4月号より再編集した記事です。