気鋭の劇作家・岡田利規が問う、「想像」を介した言葉と身体の関係性

  • 文・監修:富田大介

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初期のねじれたリアリズムから現在のフィクショナルワールドへ。演劇界のトップランナーが世に投げかけた、言葉と身体の関係性、そして「イマジネーションが振付になる」という、その意味は?

Pen4月号の第2特集は『ダンスを観よう』。
社会におけるデジタル化が進むにつれ、フィジカルな体験や「場」の共有が重要性を増している。写真や映像といった二次元の複製可能な芸術作品でさえ、今日ではそれが発表される方法や受け手と共有される空間が意識された上での展示がなされている。その意味では、代替えの効きづらい身体をメディアとするダンサーの表現は、個性を消しづらいぶんだけ、受け手との一期一会の“出会い”を、「いま、ここ」という“時代性”を浮き上がらせる。そして、ダンスが面白いのは、音楽、美術、照明、映像、衣装などさまざまな要素が絡み合った複合的な芸術であるということだ。20世紀のバレエとダンスの歩みを振り返りつつ、プロデューサーやアーティストなど、さまざまな視点から「ダンスのいま」を捉え、その魅力を紹介する。 

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1年の延期を経て2021年に開催された東京オリンピック。さまざまな問題を孕んだ開会式において、ひと際異彩を放ったのが、森山未來の舞だ。森山の白装束姿での鎮魂の祈りは、開会式のひと月前に彼が出演した『未練の幽霊と怪物──「挫波」「敦賀」──』が下地にあることは、舞台を観た者なら想像に難くない演出であった。森山本人も式典後にSNSで関係者への謝辞を述べるなかで「最後に『未練の幽霊と怪物』の作・演出である岡田利規さんに最大のリスぺクトを」と言及している。

ドイツ有数の公立劇場からレパートリー作品を依頼されるなど、国内外で高い評価を得る岡田利規が手掛けた本作は、「能」の形式を用い、ザハ・ハディドをシテに描く『挫波』(ざは)と高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる『敦賀』(つるが)の二演目で構成され、森山はザハの霊を憑依させた主役のシテとして出演。岡田らしい現代社会への批評的な眼差しが顕在化された作品であったが、どのように作られたのか。

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岡田利規●演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年、横浜生まれ。97年、自身が脚本と演出を務めるチェルフィッチュを設立。独特な言葉と身体の関係性を用いた手法や現代社会への批評的な眼差しが評価され、欧州の劇場やフェスとの共同制作多数。小説家としても大江健三郎賞、三島由紀夫賞など受賞歴多数。 photo: Kikuko Usuyama

「動きそのものは森山さんが出してきたものです。稽古では、テキストをかなり読み込みました。それは抑揚をうまくつけるためとかではなく、その言葉を発している時になにをイメージするのか、それをどう表すかを探るためでした。書いてある文字通りではなく、そこに書いていないものをイメージする、でもそこにはある種のつながりがあるものを。そしてそれをどう動きへと表現したら面白いか、ということを探る。それは振付と言っていいと思います」

岡田は、代表作に挙げられる『三月の5日間』をはじめ、時にダンス的とも評される、言葉と身体の関係性を探る作品をこれまでにも多数作り上げてきたが、近年はバレエダンサーである酒井はなとの『瀕死の白鳥 その死の真相』や湯浅永麻との『わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド』など、より実験的な作品も発表している。そんな岡田とダンスとの出合いは、2000年代前半に遡る。横浜にある小劇場、STスポットの公募がきっかけだったという。

「当時、そこはコンテンポラリーダンスというか、変なダンスをしている人たちの巣窟でした(笑)。あの時、手塚夏子さんたちと出会ったのは、ホントに偶然ですが、すごく糧になりました。表現が自由に感じられたんです。演劇と比べてイケてるというか。演劇ももっと自由でいいんじゃないかって」

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『三月の5日間』

2004年の初演以来、アジア・北米・欧州などの90都市以上で上演され、チェルフィッチュの評価を決定づけた代表作。現代口語によるリアリズムの追求と、ダンスと演劇の形式にゆさぶりをかける新機軸を打ち出した。第49回岸田國士戯曲賞受賞。11年に100回公演記念ツアーを、17年には新世代キャストによるリクリエーション版ツアーも実施。 photo: Toru Yokota

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『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』

2005年のトヨタ コレオグラフィーアワードで「次代を担う振付家賞」にノミネートされた短編デュエット『クーラー』をもとにした長編作品。09年の初演から、国内外で高い評価を得る。カナダ・モントリオールの演劇批評家協会批評家賞を受賞。 photo: Dieter Hartwig

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言葉を発する時になにを想像するのか、そのイメージの中から動きをおろしてくる

岡田は05年に、短編『クーラー』がトヨタ コレオグラフィーアワードで最終選考に残り「振付家」として評価される一方、演劇界のド真ん中の賞というべき岸田國士戯曲賞を受賞し、演劇作家としての地位も固めていく。岡田にとって、ダンサーと俳優とで仕事をする時の違いはあるのだろうか。

「いまはそんなにないように思います。自分の方法が体系化されたからかもしれません。以前は、“リアリズム”という言葉をよく使っていました。そのリアルの意味は少しねじれているのですが、ノイズの誇張や追求だったんです。人間には意識して動いている時もあれば、そうでない時もありますよね。自分ではなぜそうしているのかわからないけれど、話しながら手や足が動いちゃったり。そうあることがリアルだと思い、ノイズを消さずにいた。『クーラー』や『三月の5日間』ではそのような意味でのリアリズムを追求していました。ただ、いまは、そこにあまり関心はありません。舞台上はやはりフィクションですから。日常のその辺でやっていることを舞台で見せなくてもよい、と考えるようになった。これは自分のしていることがオーソドックスな演劇に近づいているのかもしれませんが」

それはダンスや振付にも関わることだと岡田は続ける。

「人は話している時になにかしら想像しています。僕の振付では、それは演出でもありますが、そのイメージしていることを膨らませ、その中から動きをおろして引っ張り出してくる。だから、ダンサーや俳優には、豊かなイマジネーションを、面白い動きを自分にさせるコレオグラファーを育てましょうと言っています。イマジネーションが振付になるんだ、と」

ここでのポイントは、身体の動きと脚本の言葉が、直につながるのではなく、想像を介してゆがんだ仕方で結ばれるということだろう。観客は、その動きや喋り、要するにダンサーや俳優の行動を通して、彼らや岡田の想像の中に入る。ゆえにイメージは媒介になる。 

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『瀕死の白鳥 その死の真相』

いまから約100年前、ミハイル・フォーキンが振付しアンナ・パブロアの踊りによって大成したバレエ作品『瀕死の白鳥』を岡田が翻案。日本を代表するバレエダンサー酒井はなと、チェリストの四家卯大が共演。Dance Base Yokohamaと愛知県芸術劇場の共同製作による「ダンスの系譜学」の一環として創作され、2021年に愛知県芸術劇場で初演。現在、酒井はなとの再共演作を制作中。 photo: Ⓒ matron2022

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『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』

コロナ禍の影響で延期となり2021年6月にKAAT神奈川芸術劇場にて上演。建築家ザハ・ハディドと高速増殖原型炉もんじゅを題材にした二部構成で、「想像」を鍵とする近年の方法論を、能の形式で表現した。出演者の森山未來が、公演ひと月後の東京オリンピックの開会式でザハへの鎮魂を想起させる舞を踊ったことも話題に。第72回読売文学賞受賞。 photo: Yurika Kono

「能の話に戻りますが、能が幽霊を用いるのは筋が通っているんです。演劇が成立するための条件は想像力ですから。幽霊は想像力の産物です。僕は演劇を、演劇という仕組みが成立していることを信じています。これ、三段論法的には、僕は幽霊を信じないと筋が通らないことになりますよね」

東日本大震災の直後、東北では霊に会う人が少なからずいた。私たちが霊を見ることと演劇を信じること──演劇を見て泣くこと、小説を読んで泣くこと──は同根である。人間は自分を落ち着かせるため、精神を安定させるために、自らに語って聞かせる虚像(イメージ)を立てる。この力を「仮構機能」や「創話的機能」というが、岡田は俳優やダンサーとの仕事を通して、人間の生存本能を覗き込んでいる。

最後に、ダンスを見る喜びとはなにか尋ねた。「クレイジーさ、だと思います。ものすごいディテールや瞬間的なことでもいいんですが、なんでそう動いたの?みたいな。当時STスポットではそんな人が多かったですね」。あれから20年、そろそろ“変なダンス”がまた出てくる頃だろう。



文・監修:富田大介
明治学院大学准教授
研究領域は美学、芸術社会論、ダンス史。レジーヌ・ショピノの振付作品に多く出演するほか、芸術選奨や文化庁芸術祭の推薦・審査委員なども務める。編著に『身体感覚の旅』、共著に『残らなかったものを想起する』など。

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※この記事はPen 2024年4月号『ダンスを観よう』特集より抜粋・再編集したものです。


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