竣工から約35年。繁華街の中心で威容を誇る「ホテル イル・パラッツォ」の洗練されたデザインは、2023年秋に再オープンを果たしてなお、時代を越えて人々を魅了しつづけている。街に彩りを添え活性化する、都市の“資産”としての建築のあり方は、まさに“日本初のデザインホテル”と呼ばれるにふさわしい。
「ホテル イル・パラッツォ」が建物としての歴史を刻みはじめたのは、1989年。インテリアデザイナーであった内田繁がディレクターを務め、イタリアの世界的建築家アルド・ロッシやグラフィックデザイナーの田中一光など、20世紀後半のデザイン界を牽引した国内外のクリエイターたちを巻き込んだ一大プロジェクトとなった。完成した旧施設は上階にホテルを備え、地階にディスコがイン。さらに、4人のデザイナーがそれぞれ内装を手がけた4つのバーまで有していたのだという。
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時代の移り変わりとともに建物の所有者が替わり、2009年に大幅改装。その後コロナの中で2年に及ぶ大改修を重ね、今回再びホテルとして始動した。とはいえ、中身が変化しても建物自体はどこかタイムレスな趣を感じさせる。そのひとつの要因となっているのが、施設のフロント部分、すなわちファサードだ。建築物の“顔”ともいえるこの部分に窓をいっさい配置しないことで、極めてスタイリッシュかつモダンな佇まいを現実のものにしている。
建物全体のキーカラーは赤、青、緑で、模様はストライプ。そんな竣工当初の理念に回帰し再解釈を試みて、新時代へと羽ばたいていく圧倒的な世界観を打ち出すことに成功した。外観を筆頭とする不変のヘリテージと、現代ならではの機能性や美的観念が無理なく共存する空間をつくりだしていることを実感させられるはずだ。
ヴィヴィッドなカラーブロックが印象的な建物の共用部分と対比して、ホテルの客室内はあえて色を抑え、シンプルに。これは観光やビジネスなど、どんなシーンで滞在する人にも気負いなくリラックスしてもらえるようにとの心遣いから生まれたものだ。それでいて、室内の家具や照明、時計は当時の意匠や色彩をベースに新たにオリジナルで制作したものを採用。プライベートな空間でも、アートやデザインとその心地よさにどっぷりと浸ることができる。
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ただしこのホテルの魅力は、立地や設計ばかりではない。「ガラディナー」と銘打たれ、ラウンジスペースで予約客のみに供されるフランス料理のフルコースや、いつでも軽食がいただけるオールデイダイニングビュッフェなど、食のデスティネーションとしてもおおいに充実しているのだ。とりわけ、“特別な催し”という意味をその名に持つ「ガラディナー」は、南青山のレストラン「イッシン」の料理長や「SASAO」のオーナーシェフを務めた笹尾十三夫(とみお)シェフがメニューを監修。彼が惚れこんだ季節ごとの厳選食材を用い、美しくも楽しさに満ちた至福の味を提供する。
上質な食材をふんだんに使い、バリエーションに富んだ味わいと食感を随所に効かせて展開される味覚のスペクタクルは、“食もアート”だということを再認識させてくれること間違いなしだ。
特別な「ガラディナー」以外に、ラウンジで一日中ビュッフェ形式の食事がいただけるのも「ホテル イル・パラッツォ」の特徴。モーニング、ランチ、アフタヌーンティー、ディナーと、7時から21時までの4つの時間帯で少しずつラインナップが異なる料理とスイーツがサーブされ、いつでも空腹を満たすことができる。宿泊客はフリーエントランスで何度でもアクセス可能だというから、ビジネスでの利用や、とことんホテルライフを楽しみたいステイケーションにはうってつけ。
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福岡の街でオブジェのように佇む建造物をすみずみまでじっくり鑑賞し、デザインに込められた意図へと思いを馳せたなら、日常における“意匠”が持つ意味合いまでもを、さらに深く考えるきっかけとなるはずだ。アートやデザインが都市の発展に及ぼす影響やその可能性を、身近に感じてみてほしい。
ホテル イル・パラッツォ
福岡市中央区春吉3-13-1
0570-009-915
https://ilpalazzo.jp