写真家、アーティストの高松 聡は、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在して超高解像度で映像撮影し、宇宙から見た地球の視覚体験を地上で再現する宇宙アートプロジェクト「WE」を始動する。カップラーメン「NO BORDER」などの“宇宙ロケCM”や、パブリックビューイングの仕掛け人としても知られる高松。彼の集大成とも言えるこのプロジェクトの発表会が2月8日、都内で行われた。
宇宙飛行士の夢を諦め、広告業界へ
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学生時代より宇宙に憧れ、宇宙飛行士を目指していた高松。だが近視のため基準の視力に満たず、22歳の時、宇宙飛行士の夢を断念した。その後はクリエイティブ・ディレクターとしての道を歩んできた彼だったが、ターニングポイントが訪れる。ポカリスエットのCMだった。2001年、世界初の宇宙ロケCMの撮影をポカリスエットで実現し、その後2回目の宇宙ロケCMとなる「反戦」をテーマとしたカップヌードル「NO BORDER」は広告作品でありながら社会性の強いキャンペーンを提示し、多くの人の心を揺さぶった。
また02年の日韓ワールドカップの際には、世界初のFIFAパブリックビューイングを国立競技場で実現。当初は否定的な意見もあったが、結果は大盛況。「非常に多くの人が見たいと思っている貴重なコンテンツは、限定的な人数の方しか体験できない。限りなくリアルなバーチャル体験を多くの方に提供することに大きな意味がある」。
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ロシアでの宇宙飛行士訓練、写真家としての活動
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高松は15年に広告業界を離れ、ロシア「星の街」で8カ月に及ぶ宇宙飛行士訓練に挑む。理由は宇宙飛行士になりたいという純粋な気持ちだった。
だが高松は、行き場のない想いを抱くようになる。「宇宙飛行士の資格を取るためだけに頑張ることに何の意味もない。資格マニアのようで社会的に意義のあるミッションはなかった」と彼は振り返る。
一方で、小さい頃から親しんできた写真にも力を入れ、写真家・アーティストとして活動するようになる。14年には東京都現代美術館「ミッション [宇宙×芸術] - コスモロジーを超えて」に出展。20年の個展「FAILURE」は反響を呼んだ。
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宇宙から地球を見るパブリックビューイング
今回の宇宙アートプロジェクト「WE」は、一言で表すならば“宇宙から地球を見る体験のパブリックビューイング”。今日までに宇宙に行って、地球を見たことがある人間は600人程度。高松は「宇宙から見た地球を、地上で見たい。これは僕だけの夢ではない」と語る。
国家機関や超富裕層などの限られた人だけでなく、世界中の人が地球を見る体験にアクセスできるようにすることを目指し、「私達の、私達による、私達のための宇宙プロジェクト」を掲げた。
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高松は24年1月、米国ヒューストンAxiom Space社と30日におよぶ長期滞在宇宙飛行の座席予約契約を完了。人間の視覚認識限界に迫る超高解像度の地球撮影を、写真、動画、360度VR動画で実施する。
撮影には複数台の高性能カメラをスタックして同時運用し、静止画3億画素、動画24K、VRではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で60PPD(PPD Pixel per degree 画角一度あたりのピクセル数)を超える360度動画再生を実現する撮影を行う。さらに後処理でマシンラーニングさせたAI超解像を行い、出力は静止画6億画素、動画48Kをターゲットとする。
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また、写真・動画・VRで「地球を見る」体験装置としてWEパビリオンを構築。撮影した映像を映し出すディスプレイは横幅100メートルの超大型で、3メートルの距離でディスプレイを見ると、400キロメートル上空のISSから地球を見たときの体験とほぼ同じ視覚体験となる計算だ。後方に移動すれば地球の全貌が見えてくるように設計するという。
宇宙飛行士はしばしば、宇宙から地球を見ると「オーバービューエフェクト」と呼ばれる体験、マインドシフトが起きると言われている。高松はこの体験を地上で再現するつもりだ。「ほとんどの人がこの青い地球を守りたいと思い、サステナビリティを肌で感じる。戦争をなくしたいと強く願うはずだ」と期待を込め、こう結ぶ。
「宇宙体験をすべての人と共有するミッションを遂行するWE Astronautとして活動したい。それが私にできる最大の社会貢献であり、最大の夢である。このプロジェクトが成功したならば、宇宙活動のフロンティアすべてに同水準以上の撮影装置を設置し、有人・無人の撮影を行うことを計画したい。月へ、火星へ、太陽系の外へ。私たちの宇宙視覚体験は広がっていくのだ」