東京を語る上で、銭湯は外すことができない重要な文化だ。江戸時代から人々の社交場として栄えた銭湯はいま、デザインの力を得て進化している。ブームを経てもなお増え続けるサウナもまた、デザイン性に優れた新施設が次々に誕生している。
Pen最新号は『東京がおもしろい!』。都市は新陳代謝を繰り返し、常に変化し続ける。世界屈指のメガシティ、東京はなおさらだ。アフターコロナのいま、気がつけばあちこちで新しい動きが起きていた。世界中の人々を惹きつける新旧混じり合うこの都市で、いまどこへ行くべきか? 2020年以降オープンのショップからクリエイターたちのお気に入りまで、東京の“ いま”がここにある。
『東京がおもしろい!』
Pen 2024年3月号 ¥880(税込)
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温泉大国・日本において、温浴文化は古くからあったのだが、湯銭を払って入浴する大衆浴場としての銭湯が登場したのは江戸時代初期だといわれている。当時は庶民の家に内風呂があるのは珍しかったから、銭湯の存在はかなり大きなものだったのだろう。
江戸時代末期、東京に600軒ほどあった銭湯は1960年代後半に2600ほどに増えたのをピークに、2022年には462に減少した。そこには一般家庭への風呂の普及など、日本人の生活スタイルの変化が理由としてある。銭湯の総数は減っているものの、現在の東京では銭湯文化の大切な部分を守りつつ、建築・デザインの力を得て進化した銭湯が増えているのも興味深い。
減少傾向の銭湯に対して、ブームを経て増え続けるサウナの存在がある。面白いのは、そもそも江戸時代の銭湯はスチームサウナというべき蒸し風呂だったのだ。江戸の庶民はサウナに親しんでいたといえるのではないだろうか。
進化するサウナにおける東京の傾向として、限られたスペースの有効利用と、プライベート感を追求するという潮流がある。江戸時代に花開いた銭湯と蒸し風呂の文化が、400年の時を経て進化した姿を楽しまない手はない。
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黄金湯【錦糸町】
新たな流れを生んだ、話題のデザイナーズ銭湯
1932年に創業した老舗銭湯、黄金湯が2020年にリニューアル。総合プロデュースをアーティストの高橋理子、内装をスキーマ建築計画が手がけ、浴室には画家・ほしよりこによる富士絵巻図が描かれるなど、各地で増え続けているデザイナーズ銭湯の代表的存在となった銭湯だ。「グローカル銭湯と幸せ空間」をコンセプトにしたリノベーション後は、風呂やサウナの魅力はもちろん、DJブースのある「番台バー」での音楽や自社醸造のクラフトビールを楽しみに訪れる人も多く、新しい銭湯のかたちを見せてくれている。
狛江湯【狛江】
文化を体験する場所としての、新しい銭湯のかたち
「家庭に風呂が普及している現在、銭湯の役目は終えましたが “銭湯文化を体験する場”としての新しいかたちにしようと思いました」というオーナーの想いで、70年近く続いた狛江湯(こまえゆ)が2023年にリニューアル。設計はスキーマ建築計画、タイルの目地を活かした浴室壁やロッカールームなどのグラフィックは長嶋りかこが手がけた。番台併設のカウンターではタップによるクラフトビールや食事を楽しめたり、月に1回はマルシェを開催するなど、地域のハブメディア的な役割として、銭湯の多様性を表現している。
渋谷SAUNAS【渋谷】
細部にまでこだわり抜いた、日本屈指のハイクオリティサウナ
サウナブームの火付け役であり、「ととのった」というワードをメジャーにしたマンガ家のタナカカツキが総合プロデュースした渋谷SAUNASは、徹底的にサウナにこだわり抜いた極上の“ととのい”空間。サウナの時間に集中できるよう、視覚的なノイズを減らすために館内の掲示サインをミニマルに処理したり、サウナ室を出た後も心地よさが途切れないよう肌に触れる部分は角を取り除いた仕上げを施すなど、ディテールやマテリアルなどの細部にまでこだわった。館内には、趣向を凝らした9つのサウナ室と2種類の水風呂があり、男女入れ替え制にすることで、すべてのサウナ室を愉しむことができる。渋谷の雑踏を抜けて一歩足を踏み入れると、デザイン的にも設備的にも現在における日本最高クオリティのサウナの世界が待っている。
ソロサウナtune【神楽坂】
ソロサウナ界の礎をつくった、パイオニア的アーバンサウナ
「サウナでやりたいことをすべて叶え、性別の壁を越えて愉しんでもらうためにたどり着いた答えがソロサウナでした」というオーナーの発案で誕生した日本初のソロサウナ。設計時にはVRゴーグルを用いて試行錯誤した空間と動線、サウナ室で寝転がることを前提にしたタオルの品質、屋久島でオーナー自らフィールドレコーディングした室内サウンドなど、ディテールにこだわり抜いた至福のプライベート空間だ。
Sway【外苑前】
自然のゆらぎを感じられる空間で、自分を解放する
外苑前エリア初となるプライベートサウナSway。エントランスのドアハンドルに使われた希少な黒柿や、神代ケヤキを用いたカウンター、サウナ室内部の木板のあしらい、粘土でつくられた部屋のサインなど、土、木、石のマテリアルにこだわった空間は都心部にいながら、自然のゆらぎを感じ、プリミティブな感覚を呼び起こしてくれる。都市の喧騒から離れて心身をととのえる時間にふさわしい空間になっている。
BAR SAUNA【代官山】
「ととのう、語らう」をコンセプトにした、洗練空間
サウナと水風呂がコンパクトにレイアウトされた静かな個室で心ゆくまでサウナの時間を堪能した後には、暖炉の炎に癒やされるスタイリッシュなバーラウンジが待っている。素足で過ごせるよう、床にカーペットが敷かれているのもうれしい。サウナで極限までリラックスした状態で、バーで大切な人とゆっくりと語り合う。会員制ならではの安心感と特別感。新しいサウナエクスペリエンスを味わえる。
サウナ東京【赤坂】
江戸の銭湯文化の流れを汲みつつ進化する、最新型温浴施設
旅館のような佇まいのエントランスを入ると畳が敷かれた更衣室など、和風エッセンスでまとめられた空間が広がる。都内最大級の40名収容可能なメインサウナ室の他には、フィンランドで「木の宝石」と称されるケロ材のサウナや遠赤外線ストーブを使用した昭和スタイル、江戸時代に流行した戸棚風呂をモチーフにしたスチームサウナなど、時空を超えたバリエーション豊かな5つのサウナを楽しむことができる。
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