「一人娘が住むところぐらいなきゃいけない」、亡くなって気づいた父親の愛

  • 文:横森理香

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写真はイメージ(ShutterStock)

身近な人に死が訪れたとき、葬儀から法事、遺産相続、家の整理、お墓問題など、やらなくてはならないことがたくさんある。作家・エッセイストの横森理香さんが自身の体験をもとにつづったエッセイ『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』では、親を見送る世代のために、いまからできる“喪のしごと”を紹介している。

本記事では同書から一部を抜粋。父親を看取ったある独身女性のケースを取り上げる。

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独身で親を看取った友人S

友人Sは独身で父親と二人暮らしだった。末期がんで余命宣告を受けていたが、入院はしたくないというご本人の希望で、在宅医療を受けていた。月二回、かかりつけ医が訪問してくれる。

「入院したくないっていうから、どうしようかと思っていたら、たまたま近所に在宅医療のクリニックができたんです。いわゆる看取り医で、死亡診断書も出してくれるので、自宅で死んでも警察が入ることはないんです」

女性医師で、とても力強く、あたたかい人だったという。

「父は私が仕事から帰ったとき、床にうつ伏せで倒れてたんですが、慌てて先生に連絡し、死亡を確認してもらいました。二人で仰向けにし、一晩中、コンビニに氷を買いに行って、遺体を冷やしていました」

動揺が少し収まった深夜、父親の側近にラインを打ち、その晩はそばで寝て遺体を冷やし続けたという。

「看取り医の先生から、とにかく冷やすことと、ATMで当面必要なお金をおろしておけと言われ、コンビニに五回通ったかな」

いくらくらいかかるかわからないし、葬儀では現金でしか払えないものもあると聞くから、いろいろな支払いも含めて、とりあえず百万は下ろしておこうと、父親の口座から二十万ずつ五回、引き出した。

「なんか、強盗殺人犯みたいでしたよ」

とSは笑う。

父親は会社を経営していたので、翌朝、跡を継いでくれたO氏から電話があった。

「どの程度の葬儀をあげるおつもりですか?」

「何も考えてなくて、予算も見当がつかないんです。父は、小さな葬儀がいいと言っていましたが……」

父親が息子のように育てた後継者だけに、ネットで検索してちょうどいいところを探してくれたという。テレビにも取材された、ぼったくらず、心を込めた葬儀をしてくれる葬儀社だった。無宗教の葬儀なので、戒名料、僧侶への謝礼はいらなかった。

「東京都は火葬代が高いから、葬儀代金はどうしても高くなっちゃうんですが、区から助成金が七万円いただけるので、百万円以内では収まったんです」

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死後の手続き

「まず区役所に死亡届を出さなきゃいけないんですが、これはその後何通も必要だから、コピーを取らなきゃいけないんです。でも知らなくて、原本を渡しちゃったんですね。返してはもらえないから、看取り医にもう一通書いてもらったんです」

これからの方は、死亡届のコピー、取っておこう。

「書類事が苦手なので、四月に亡くなって、翌年の二月までに相続手続きもしないといけなかったんですが、ぎりぎり十二月に司法書士さんと打合せをして、二月までになんとか終わらせたんです」

司法書士からもらったという、「相続人様へのお願い書」というのを見せてもらった。書類事が苦手なSは、父親の側近二人に同席してもらい、確認作業をしてもらった。

「必要な書類とか証明書が、ほんとにこれでいいのかとかも、私にはわからなかったので、いてくれてほんとうに助かりました」

一人っ子だから相続は簡単だが、書類事が苦手な上に、父親の半介護で心身ボロボロの状態だった。

「会社と個人と両方、同じ会計士さんに頼んでいたので、言われるままレシートを揃えてお渡ししました」

一緒に住んでいたため、家の相続税は減税対象だったが、問題はそのマンションが借金の担保に入っているかいないかだった。

「会社経営のため、家も生命保険も資金繰りに使ってたんです。だから、もし借金しか残らなかったら財産放棄しようと思ってたんですが、死ぬ直前に家だけは担保から外れていたんです」

そのためSは実家に住み続けられることになった。

「それがわかるまでは、出てかなきゃならないのかなという不安で、これから先のことなんか考えられなかった」

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故人の愛と遺志

「一人娘が住むところぐらいなきゃいけないと、父も心配していたようですが、実際には後継者であるO氏が尽力してくださったんです」

葬儀や相続手続きでかかった費用と遺産はトントンだったが、のちに会社が死亡退職金を出してくれた。

「それを樹木葬の費用と、私のリハビリ代と、休職の費用に充てようと思っています」

介護ウツと、介護のため負った肩腱板損傷の治療費だ。

Sはしばらく休んでいた仕事に戻った。いまは通勤に駅まで三十分歩き、一日ハードに仕事をし、元気を取り戻しているという。

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『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』
横森理香 著
CCCメディアハウス
¥1,650

【著者】
横森理香(よこもり・りか)
作家、エッセイスト。「一般社団法人 日本大人女子協会」代表。1963 年生まれ。多摩美術大学卒業。現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代♥大人女子のための“お年頃”読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちん バブル純愛物語』はバブル時代を描いた唯一の小説と評され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブで翻訳出版されている。また、「ベリーダンス健康法」を発案、主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行う。2017年11月、「一般社団法人 日本大人女子協会」を設立、大人女子の「健康」「美」「幸せ感」を高める活動をしている。

【オフィシャルサイト】http://yokomori-rika.net/
【協会ホームページ】https://otonajoshi.or.jp/
【Ameba 公式ブログ】https://ameblo.jp/arafif-life55