紫綬褒章を受章したバレエダンサー、上野水香が東京バレエ団を率いてベジャールやプティの名作を熱演

  • 文:並木浩一

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東京バレエ団ゲスト・プリンシパルである上野水香の魅力を、最大限に堪能できる特別公演が開催される。3月に東京・横須賀・浜松で行われる合計4回のステージは、昨年秋に紫綬褒章を受章した記念公演でもある。いま最も脂の乗ったバレリーナが踊る「ボレロ」他の演目は、ダンスファンならずとも必見だ。

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上野水香の代名詞とも言われるお家芸、モーリス・ベジャールの「ボレロ」は、日本中の観客を魅了してきた。世界を代表する選ばれたダンサーによって踊り継がれてきた伝説に、彼女の名前も刻まれている。 photo: Shoko Matsuhashi

日本を代表するバレエダンサー・上野水香を中心としたダンス公演「上野水香 オン・ステージ」が開催される。この公演名は、ちょうど1年前の2月に行われたのと同じものだ。令和3年度(第72回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念として、上野のために組まれた特別公演であった。そして東京バレエ団の規定により2023年3月をもってプリンシパルとしての契約満了を迎えた。4月から上野は、彼女のために新設された「ゲスト・プリンシパル」の肩書きで、同バレエ団の舞台に上がっている。今年の「オン・ステージ」は、新しい立場での1年間を集大成する舞台になる。
 
演目は東京公演では1プログラムのみ、上野を主役とする「カルメン」「タイス」「ボレロ」に加え、東京バレエ団による「ドン・キホーテ」(抜粋)が予定されている。東京以外にも浜松、横須賀での公演が決定しており、こちらでも「ドン・キホーテ」(抜粋)に加え、上野は「白鳥の湖(第2幕より)」「Nocturne for Three」「ボレロ」を踊る。
 
上野のゲスト・プリンシパルとしての1年の活躍は目まぐるしいものだ。3月末にテレビ「情熱大陸」への出演、4月の「上野の森バレエホリデイ」期間にはジェローム・ロビンズ作「イン・ザ・ナイト」に出演。6月には台湾・台北の國家戯劇院で開催された「インターナショナルバレエスターガラ」に、パリ・オペラ座バレエ団エトワールのレオノール・ボラックら、各国の有名ダンサーとともに登場した。同じく6月には「上野水香オン・ステージ」を埼玉・川口、岡山の2カ所で公演するなど、実り多き1年であった。

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全公演で上演される東京バレエ団の「ドン・キホーテ」は、初演時にボリショイ・バレエ団出身のウラジーミル・ワシーリエフに協力を取りつけたもの。東京バレエ団の数あるレパートリーでも屈指の人気を誇る演目だ。 photo: Koujiro Yoshikawa

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そして秋の褒章では、芸術文化の分野で優れた功績を評価され、紫綬褒章を受章している。歌人・俵万智との同じタイミングでの受賞だったこともあり、大きな話題となったのを記憶している人も多いだろう。その記念公演でもある今年3月の「上野水香オン・ステージ」は、2023年の「オン・ステージ」が芸術選奨文部科学大臣賞の記念公演でもあったことに続く、2年連続の慶事でもある。今回の公演では、芸術選奨の理由にも挙げられた作品がふたつ含まれている。アルベルト・アロンソ振付の「カルメン」は東京公演のみだが、モーリス・ベジャール振付の「ボレロ」は全公演で踊る。
 
ベジャールの「ボレロ」は、かつて大ヒットした映画「愛と哀しみのボレロ」(1981年)で当時ベジャール・バレエの男性スターだったジョルジュ・ドンが踊り、熱狂的な信者を生んだ、魔術的な魅力を持つ演目だ。ひとりの主役「メロディ」と男性の群舞(リズム)で構成される。メロディは男性と女性のどちらが踊ることも可能で、ベジャール作品の中でもつとに名高い。女性ダンサーではショナ・ミルクやマイヤ・プリセツカヤ、シルヴィ・ギエムら、伝説的な名が並ぶ。
 
そしてこの作品は、日本のバレエ団で踊る日本人女性ダンサーでただひとり、上野だけが踊ることを許可されている。自ら上野に指導した生前のベジャール、著作権を継承したベジャール・バレエ団も、他の誰にもこの演目を踊らせていない。上野はこの作品を精力的に踊り続けており、特に2021年から2022年の全国ツアーが記憶に新しい。圧倒的な生命力に満ちた踊りは、コロナで疲弊した人々、東日本大震災から再生する地を励まし続けた。

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横須賀と浜松公演では誰もが知る名作「白鳥の湖」の抜粋(第2幕)を、東京バレエ団のメンバーとともにオデット役として踊る。相手役ジークフリート王子は英国バーミンガムロイヤルバレエ団で初の日本人男性プリンシパルとなり、2022年から日本に活動の場を移した厚地康雄が務める。 photo: Shoko Matsuhashi

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「タイス」は、世界的振付家ローラン・プティが、もともとは元パリ・オペラ座エトワールのドミニク・カルフーニ(現エトワール、マチュー・ガニオの母でもある)に振り付けた作品だ。プティは当時まだ20歳そこそこであった上野を高く評価し、自作を踊らせる機会を数多く提供した慧眼の持ち主。「タイス」は2021年には今回と同じパートナー、柄本弾と踊ったロマンティックなパ・ド・ドゥである。情熱的なベジャールの「ボレロ」やアロンソの「カルメン」とは対照的な演目であり、上野がどう踊るかの興味は尽きない。
 
背が高く、手足が長く、体型に恵まれた上野は、舞台の上で圧倒的に目立つ。まだ牧阿佐美バレヱ団に在籍していた10代の頃、草刈民代が主役の「白鳥の湖」で“各国の姫君”を踊っていた頃から、飛び抜けた輝きを放っていた。ひとりのダンサーにフォーカスを当てた特別公演では、この上なく映える。恵まれた容姿と才能を持て余していたようなかつての少女は、プリマ・バレリーナとしての円熟期を迎えようとしている。いま、観るべきステージである。

㈪【タイス】20210918_Thais_Mizuka Ueno_Dan Tsukamoto_S6_4673_photo_Hidemi Seto.jpg
ローラン・プティ作「タイス」。上野は2012年にマシュー・ゴールディング(当時オランダ国立バレエ団プリンシパル、その後英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)と踊って高い評価を得た演目。近年では東京バレエ団の柄本弾と共演しており、今回も同じ相手役となる。 photo: Hidemi Seto 

上野水香オン・ステージ

【東京公演】
公演日:3月19日、20日
会場:東京文化会館

【浜松公演】
公演日:3月30日
会場:アクトシティ浜松

【横須賀公演】
公演日:3月31日
会場:横須賀芸術劇場

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