サウナにアートギャラリーまで… 従業員のクリエイティビティを誘発する、JINSの新社屋に潜入!

  • 文:高野智宏

Share:

jins0125_0.jpg
お披露目されたジンズホールディングスの新社屋。オフィスとは思えないさまざまな仕掛けが、同社の哲学を体現している。(C)photo Takumi Ota

アイウエアブランド「JINS」を展開するジンズホールディングスが東京都・神田に本社を移転し、9階建てのビル1棟をフルリノベーションした新社屋を公開した。設計を手掛けたのは、国内外で活躍する若手建築家、髙濱史子。“壊しながら、つくる”がコンセプトの新社屋は、物理的・心理的分断をなくすため、5〜8階を貫く吹き抜け構造を採用。しかもアート空間やサウナ、カフェなど、クリエイティビティを誘発する多彩な仕掛けが導入された。

---fadeinPager---

サウナで誘発する、社員のコミュニケーションと創造力

jins0125_1.jpg
jins0125_2.jpg
jins0125_3.jpg
9階に誕生した従業員用のサウナ「ARNE SAUNA(アーネ サウナ)」。サウナを楽しみながらミーティングをすることも可能で、グループサウナには会議用のホワイトボードが設置されている。(C)photo Takumi Ota

新社屋で興味を引いたのが社員用サウナだ。最上階の9階に設けられた「ARNE SAUNA(アーネサウナ)」は、日本サウナ学会代表理事の医学博士、加藤容崇さん監修による本格的なフィンランド式サウナ。サウナストーンには、島根県石見地方の特産、石州瓦を用いた“メガネ型”サウナストーンを採用。地域活性化へ貢献しつつ、同社らしい創造性と遊び心を表現する。

グループサウナとソロサウナが用意され、グループサウナの外気浴エリアでは、サウナという特殊な空間でのコミュニケーションやイマジネーションが産むアイデアを、その場でディスカッションできるようホワイトボードを設置。“熱い”議論とクリエイティブな発想を後押しする。

なお、名称のARNE(アーネ)とは、JINS創業の地である群馬の言葉で「そうだね」や「なるほどね」など、理解・共感・納得を意味する万能的なあいづち「あーね」から命名されたという。

---fadeinPager---

アジア初となる、植物ろ過システムをもつアートを設置

jins0125_4.jpg
jins_5.jpg
執務エリアの中心に設置された「Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ デラリア)」。視覚的な癒やしを与えるとともに、空気の浄化もできる優れものだ。(C)photo Takumi Ota

新社屋のアート面を監修したのは、世界的キュレーターである金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子。驚かされたのは、5階から8階まで貫くの吹き抜けの基部に設置された、多種多彩なグリーンが生い茂るアート作品「Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ デラリア)」の存在だ。

これは、フィレンツェ大学教授の科学者、ステファノ・マンク―ゾが率いる、国際植物神経生物学研究所(LINV)で実証された植物による空気の浄化作用に関する研究結果を、デザイナーと植物学者で構成するシンクタンク「PNAT(ピナット)」が実用化。バイオフィルターにより空気を浄化するアート作品だ。

アジア初の導入となる同作品は、約8.22平方メートルの植物プールと、心臓部でありその中央に位置する約4平方メートルのケース内の植物で構成。プール内では多彩な熱帯植物が軽石や純粋ゼオライト、活性炭の混合物に植えられて自生し、社員に癒やしときれいな空気をもたらす、新しいアートの形だ。

---fadeinPager---

併設するアートギャラリーで、インスピレーションを刺激

jins0125_5.jpg
jins0125_6.jpg
会議室の共有スペースはアートギャラリーとして活用。アート作品が社員のインスピレーションを刺激し、活発な議論へと導く。(C)photo Takumi Ota

また長谷川は、複数の会議室を擁する3階の共有スペースをアートギャラリーとして展開。オープニングを飾ったのは、立石従寛、松田将英、保良雄の3名によるインスタレーション「Gravitation」。

落下して割れたカップ&ソーサーの破片が、仮想空間で再び出会う物語を表現した7枚のLEDモニターに映し出される映像作品で、そのモチーフとなったのは、詩人・谷川俊太郎の詩集「二重億光年の孤独」。万有引力を「引力に引き合う孤独の力」と定義した一節にインスピレーションを経て制作された作品は、浮遊感のあるBGMが没入感をもたらし、見る者の想像力を掻き立てる。

長谷川は「アーティストの創造性とビジネスの発想や創造性がアクチャリティを持ってクロスする場所。年2回の展示プログラムを通して、日常を見る眼差しの感度を上げ、少し先の未来へと踏み出す、インスピレーションを与えるアートを展開する」と想いを語る。

---fadeinPager---

1階のコーヒースタンドは、誰もが利用できるオープンエリア

jins0125_7.jpg
開放的な空間の1階は、行き交う街の人も利用可能なオープンスペースに。(C)photo Takumi Ota

1階ではジンズが経営するコーヒ―ショップ、オンカコーヒーの3号店となる「ONCA COFFEE 神田店」がオープン。ハンドドリップで丁寧に淹れられるメニューは潔く、ブラックの「kuro(クロ)」と抽出方法にこだわったカフェオレの「siro(シロ)」の2種類のみ。1号店でありカフェを併設する焙煎所「前橋店」で焙煎した豆を用いた高品質な一杯を提供する。

ここでは、同じくジンズが運営するベーカリーカフェ「エブリパン」の焼き菓子も販売している。往来の多い交差点の一角に位置する新社屋。社員はもちろん街の人たちも楽しむことが可能なコーヒースタンドだ。

---fadeinPager---

実はこの新社屋は、周囲一帯の再開発により将来的に取り壊しが予定されている、いわば仮社屋。その時期が来れば同社は、再び新たな社屋に移転することが決まっている。ではなぜ、ここまでの大掛かりなリノベーションを施すのか。

ジンズは現在、“Second Genesis(第二創業)”を掲げ、JINSブランドの刷新に取り組んでいる。これは商品のみならず社員の働き方についても同様で、自分たちが冒険者(ベンチャー)であることを改めて認識し、覚悟をもって新しい価値観づくりに挑戦するマインドを取り戻すべく、本社移転とフルリノベーションを決めたのだという。

さまざまな仕掛けで社員のイマジネーションを刺激し、クリエイティビティを誘発するジンズの新社屋。この場所から、いかにユニークで洗練されたデザインや革新的な機能を持つアイウエアが誕生するのか、期待して待ちたい。

JINS

www.jins.com/jp