「クリエイター・アワード2023」で、各界のプロが推す気鋭のクリエイター10組に選ばれたひとり、料理人の関谷健一朗。日本のみならず、世界の料理業界の未来を切り拓く彼の活動に注目したい。
Pen最新号は『クリエイター・アワード2023』。私たちの心をゆさぶる作品を生み出した彼らが、いま考えていること、見ている景色とは? 第一線で活躍する彼らの素顔と背景に迫りながら、輝き続けるクリエイションに敬意を表し、たたえたい。
『クリエイター・アワード2023』
Pen 2024年1月号 ¥990(税込)
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小山薫堂のコメント
「10年前、僕が総合プロデューサーを務めている料理人コンペティション『RED U-35』の第1回目に関谷さんが応募されました。鳥の巣を模したお皿に卵を載せた料理をつくられて、『忘れてならないのは、食材とは命であり、私たちは命を奪っていただいているということです』と語られました。僕がいま万博で取り組んでいることにも通じるのですが、10年前にこう語ったシェフが世界で注目されたことがうれしい。今後も日本の料理人をリードしてほしいですね」
日本人初のM.O.F.受章、フランス料理の最高峰へ
フランス文化の最も優れた継承者にふさわしい技術をもつ職人に授与される称号、フランス国家最優秀職人章Meilleur Ouvrier de France(M.O.F.)。関谷健一朗シェフは、料理部門で日本人初の受章を果たした。99年の歴史をもつこのコンクールは厳格な審査と難易度の高さで知られ、受章者の証しであるトリコロール襟のジャケットは、フランス人シェフにとっても憧れの存在だ。フランス料理の最高峰へと関谷を導いたのは、いまは亡き師、ジョエル・ロブション。フランスで修業中だった関谷がパリでロブションに弟子入りしたのは2006年のこと。その後26歳の若さでスーシェフに抜擢された。
「当時ロブション氏は世界中を飛び回っていました。今日最高の料理をつくっても明日はよりよい方法を求められる。長時間労働でしたが、自分の成長を感じていたので苦労とは思いませんでした」
一日1000皿以上を供する戦場のような厨房で、師の仕事ぶりや言葉の端々から技を習得した。
「言葉がわからなかったら学べなかったことはたくさんあります。いまでもレシピを考える時はフランス語で思考しています」
渡仏した理由を尋ねると、関谷はこう答えた。
「フランス人と同じような生活をして、フランスの気候・風土・文化を理解した上で料理をつくりたかったからです」
毎朝焼きたてのパンを食べ、マルシェで季節を感じることでフランスを肌身で体験した。
「肉屋の店先では鶏やウサギが丸ごとぶら下がっている。命を奪っていただいていることを実感しました。だからこそ、すべての部位を大切に使っておいしく生まれ変わらせてあげたいと思うんです」
内臓や骨、脚、頭、脳みそまで余すことなく使い切るのがフランス料理の信条。M.O.F.の実技試験でもそこは厳しく審査される。
「審査項目はいくつもありますが、食材を使い切ることも重視される。料理が終わった後は冷蔵庫の中までチェックされます」
最終試験では前菜2品、主菜・デセールまで各8皿全32皿を、初対面のフランス人助手2名とともに5時間で完成させる。
「試験とはいえ、日々の仕事の延長です。自分の店で、ひと皿のクオリティをいかにブラッシュアップできているかが試される。特別なことをやっても見透かされるだけです」
厨房ではいつも「本当にこの味でいいのか?」と考えていると関谷。その姿勢は、「料理は常においしくなる可能性を秘めている」と語った師の姿に重なる。高みへと料理の扉を開いてくれたフランスに敬意を示しながら、関谷はすべての料理人にそのエスプリを伝えていく。
ガストロノミー“ジョエル・ロブション”
●東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-5424-1338
営業時間:ランチ11時30分~13時(L.O.)(土、日、祝)
ディナー17時30分~20時(L.O.)
休: 不定休
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