デザインユニットのブレスが25周年を記念したアートブックを発売。都内でのイベントをレポート。

  • 写真:YUGO UMEKAWA
  • 文:大西智裕
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不忍池でスワンボートを楽しむこともイベントのひとつだった。

1996年にデジレー・ハイスとイネス・カーグによってベルリンで設立されて以来、四半世紀にわたり創作活動を続けてきたブレス。その25周年を記念したアートブック『BLESS BOOK vol.3 Celebrating 25 Years of Always Stress with BLESS N° 42 ‒ N° 74』が世界に先駆けて日本で先行発売されることを記念し、2023年10月28日〜30日の3日間に渡って東京でイベントが開催された。

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イベントの最終目的地である神保町の小宮山書店。

会場となったのは、書籍が販売される小宮山書店、ユトレヒト、森岡書店の3書店。それぞれパーティーが行われたのだが、初日の28日にのみ、上野公園から小宮山書店にかけてのウォーキングという一風変わったイベントが盛り込まれていた。

実は2022年の夏、同様の趣向のイベントがすでにベルリンで開催されており、今回はその日本版なのだという。渋谷でも原宿でも浅草でもなく上野から神保町というコース設定からして、ブレスというブランドの精神性がよく表れている。

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「月の松」越しに記念撮影を行ってからウォーキングがスタート。

当日の10時を回った頃、バイヤーやプレス、本国からのゲストなど、総勢100名を超える関係者たちがドレスコードであるブレスのアイテムを身に纏って上野公園の噴水前に集合し、おもむろにウォーキングがスタート。

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ブレスのアイテムを身につけた参加者たち。

近くで開催中のキュビスム展に列をなす人々やツアー観光客たちとは一線を画す装いの一団は、まず「月の松」越しに記念撮影を行い、その足で向かった不忍池でスワンボートに乗った(もちろん乗らないという選択肢も用意されている。実際に筆者は乗らず、楽しそうにボートを漕ぐ皆をぼんやり眺めていた)。

隊列は徐々に崩れ始め、参加者たちは各々のペースで次のチェックポイントである湯島天神へと緩やかに向かう。異様だった集団はいつの間にか街になじみ始め、日常の風景へと回収されていく。 

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「ベッケライ テューリンガー ヴァルト」で振る舞われたプレッツェル。

末広町にあるドイツパンの店「ベッケライ テューリンガー ヴァルト」ではプレッツェルが振る舞われ、神田明神では鳥居脇の老舗「天野屋」の甘酒を堪能した。ゴールの小宮山書店に辿り着いたのは13時過ぎで、まともに歩けば小一時間の距離を3時間以上かけて歩いてきたことになる。

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神保町の小宮書店を目指して、淡々と歩いていく。

道中これといった派手なイベントもなく、どこか拍子抜けしてしまうような淡々としたウォーキング。

その時間の在り方と、ブレスの創作に対する姿勢 ー 猛スピードで刻一刻と変化する流行(モード)と一定の距離を置き、スペクタクルを否定するような ー がオーバーラップする。日常のいたるところに潜む、ともすれば瑣末なものとして見過ごされてしまうようなディテールの積み重ねにこそ本質は宿りうるのだと語りかけられているような気分になる。

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ブレスのアートブックには2010年から2022年までのブレスにまつわる人々、場所、出来事が綴られている。写真:石川博也

毎シーズン洋服にとどまらず、家具や寝具といったプロダクトを提案し続けているのは、日常への眼差しがデザインの起点であることの証左だろう。ユニークだが多弁ではなく、余白に富んだプロダクトは常に受け手へと開かれており、心地よさと緊張感の同居というファッション的な体験を我々にもたらしてくれる。

ブレスとは、画一化・均質化へと向かうファッションに静かに抗うカウンターであると再認識させられた、とても退屈で楽しい3時間だった。

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『BLESS BOOK vol.3 Celebrating 25 Years of Always Stress with BLESS N° 42 ‒ N° 74』18,700円。写真:石川博也

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