現在、東京都現代美術館で『MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ』が開催中だ。1999年に同館で始まった「MOTアニュアル」は、若手作家の作品を中心に問いかけや議論を喚起するグループ展シリーズ。19回目を迎える今回の展覧会では、アーティストの想像力や手仕事による「創造」と、近年、社会的に注目を集めるNFTや人工知能、人工生命、生命科学と密接な関わりをもつ「生成」の間を考察する。AIやビッグデータによりアートすら自動生成される昨今、そもそもアートとは? 創造とは? といった永遠のテーマを考えさせる場となった。
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手仕事からNFTのドローイングまで11組の作品を展示
今回登場する11組の作家は11歳から30代まで。微細な手仕事からNFT上に展開されたドローイングまで、バラエティ豊かな表現形態が特徴だ。また2階の展示室には戦前戦後を通じ現在に至るまで、「創造と生成のあいだ」を見据えて活動した先駆者たちの資料を展示。リアルとデジタルのあわい、身体と空間の新しい捉え方を模索してきた現代アートの潮流を俯瞰して見ることができる。
太宰治や夏目漱石といった作家の直筆原稿の文字を針金で書き順通りに立体化した荒井美波は、デジタルの普及により「文字を書く」行為自体が変化しつつある現代において、文字が生まれる瞬間を再現することで、手書きとデジタルの境界を軽々と超えてみせた。また種子にならなかったタンポポの綿毛が漆黒の会場に浮かび上がる(euglena)の作品は、情報から解き放たれた内的な時間へと鑑賞者を誘う。
会場では通常の展示スタイルに加え、リアルタイムでネットワーク上に存在する空間を往来する重層的な表現も登場。原田郁、平田尚也、藤倉麻子、やんツーによるUnexistence Galleryはスマホの画面からどこでも会場を鑑賞することができ、実態を超越した体験の場を提示した。11歳のNFTアーティスト、Zombie Zoo Keeperは本展のために新作を展示。タブレットアプリを用いたゾンビ×動物のドット絵には、絵筆をコンピュータに変えた自由な表現の萌芽を見ることができる。
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テクノロジーを使おうが、アナログな道具を使おうが、その主体は常に人間である。自らの知覚や身体を現実空間へと拡張させながら模索する作品も印象的だ。身体にカメラとヘッドマウントディスプレイを装着して視覚の位置を変えながら人の動きの再構築を映像化した花形槙、スライム状の物質に人間という有機体が絡み合う油彩で独特な身体感覚を呼び起こす友沢こたおの作品には、身体と表現を行きつ戻りつする普遍的な人間の営みを感じさせる。
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現代が抱える閉塞感を顕在化させるインスタレーション
このほか「発電」に焦点を当て大型重力発電装置を発表したやんツー、CGやコマ撮りの動きを思わせる立方体を使った装置『四角が行く』、掃除ロボットによるユニークな戦隊シリーズ『野良ロボ戦隊 クレンジャー』、ディストピア時代の美食をシニカルに表現した市原えつこなど、バラエティ豊かなインスタレーションは、現代が抱える矛盾や閉塞感を顕在化させる。
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後藤映則は古くから存在する手法やメディアを捉え直し、現代のテクノロジーと掛け合わせることによって現れる事象や、フィジカルとデジタルの関係性に着目した作品を展開している。今回は3Dプリンターとスリット光源によるオブジェ、昼と夜の光で変容する屋外の大型彫刻を発表した。
手仕事の根底にも情報処理の概念は存在すること、テクノロジーを用いながらも創造的な表現でアイディアを外在化させること、両者のあいだに生まれるシナジー(相乗効果)を狙った本展覧会は、同時代に生きる私たちの知覚の地平線を広げてくれるだろう。
なお会期中は本展参加作家によるアーティストトークがシリーズで開催されるほか、VR、AI、人工生命、宇宙人文社会科学や量子芸術など多領域の専門家を迎え、アートとの接点や今後の展望について語り合う。各回の出演者、開催日程など詳細はウェブサイトを参照してほしい。
『MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ』
開催期間:2023年12月2日(土)〜2024年3月3日(日)
開催場所:東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10時〜18時
休館日:月(1/8、2/12は開館)、12/28〜1/1、1/9、2/13
www.mot-art-museum.jp