【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『歌わないキビタキ 山庭の自然誌』
東京にいても、八ヶ岳の山小屋にいても、著者の心は自然の営みに寄り添っている。安倍元首相狙撃事件、ロシアのウクライナ侵攻、不穏なのは世情だけではない。認知症になった友人、親の介護、人の営みはときに理不尽でありあまりにも過酷だ。けれど、そんな時だからこそ鳥や獣、生きとし生けるものたちの営むもうひとつの世界に目を凝らすことで、命の本来あるべき姿が浮かび上がってくる。壊れていく現実と小さな命の織りなす豊かさ。本当に大切なものは、なんなのか。透徹した眼差しで語りかけてくれるエッセイだ。
※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。