“ぎこちなさ”もまた魅力、個性豊かなホトケさまに出合う『みちのく いとしい仏たち』展

  • 文:Pen編集部
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『山神像(やまかみぞう)』 江戸時代、兄川山神社(岩手県八幡平市)。林業に携わる人々にいまなお熱心に信仰されている山神様。大きな顔にちょこんとした目鼻、狭い肩幅と見事な三頭身、そして控えめすぎる合掌ポーズに心ときめく人も多いはず。丸い頭部と四角い弁当箱のような上半身の組み合わせもいとしさ満点。

日本の北東北には、地元の大工や木地師らが木材を彫って制作した「民間仏(みんかんぶつ)」が数多く残る。民間仏は、素朴でユニークな造形と表情が特徴的で、江戸時代から地方の小さな村々にある民家の神棚やお堂に祀られ、日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきた。

現在、東京ステーションギャラリーでは、北東北の暮らしが生んだ個性豊かな民間仏を紹介する『みちのく いとしい仏たち』展が開催中。高い技術をもつ工房で制作された、金色の端正な姿の本堂と違い、大工や木地師らの手によって彫られた木像のホトケさまの姿はどこかぎこちなく、親しみあふれるものばかり。煌びやかな装飾こそないものの、そのやさしくほっこりするような造形は単にユニークなだけではなく、厳しい風土を生きるみちのく(=東北地方)の人々の切なる思いがそのまま託された祈りのかたちでもある。

本展は、青森・岩手・秋田の地域の暮らしの中で、人びとの悩みや祈りに耳を傾けてきた約130点の民間仏を一堂に集め、その魅力を紹介するとともに、日本における信仰の本質を問い直そうとするものだ。8つのセクション、①「ホトケとカミ」、② 「山と村のカミ」、③ 「笑みをたたえる」、④ 「いのりのかたち 宝積寺六観音像」、⑤ 「ブイブイいわせる」、⑥ 「やさしくしかって」、⑦ 「大工 右衛門四良(えもんしろう)」、⑧ 「かわいくて かなしくて」といった、興味をそそるテーマで構成される。

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『六観音立像(ろくかんのんりゅうぞう)』 江戸時代、宝積寺(岩手県葛巻町)。良質なカツラの木に彫られたあっさり顔と、くっきりとした衣のヒダが絶妙なコントラストを生んでいる。何らかの追善供養のために造像されたとも考えられるこの六観音(左から聖観音、千手観音、馬頭観音、十一面観音、准胝観音、如意輪観音)は、祈りの静けさと装飾性を帯びた造形が秀逸。

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『童子跪坐像(どうじきざぞう)』右衛門四良作、江戸時代、法蓮寺(青森県十和田市)。丸みを帯びた像の底が、前後に揺れる仕掛けになっている。十和田市には、大工・右衛門四良が手がけた武骨でやさしい像が多く残される。

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『観音菩薩立像(かんのんぼさつりゅうぞう)』江戸時代(貞享5年/1688年)、松川 二十五菩薩像保存会(岩手県一関市)。

みちのくの人々の心の拠り所として大切に受け継がれてきた、いとしさ満点のホトケさまたち。その歴史を感じさせる味わい深い佇まいに、あたたかな何かを感じるはず。ぜひお見逃しなく。

『みちのく いとしい仏たち』

開催期間:2023年12月2日(土)〜2024年2月12日(月・振休)
会場:東京ステーションギャラリー
TEL:03-3212-2485
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで)※入場は閉館の30分前まで
定休日:月曜(1/8、2/5、2/12は開館)、12/29〜1/1、1/9
料金:一般¥1,400

www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition