「森美術館開館20周年記念展」――エコロジーの多様な解釈をかたちにするアーティストたち

  • 文:青野尚子(アートライター)

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保良 雄『fruiting body』 2022年 インスタレーション 展示風景:Reborn-Art Festival 2021-22:利他と流動性[後期] ※参考図版 photo: Taichi Saito

産業革命以降、人類が環境に与えたインパクトはそれまでの数万年単位の地質学的変化に相当するとの説もある。この急激な変化による危機にどう立ち向かうのかをアートの側面から検証する展覧会が開催中だ。

展示は4章構成。1章「全ては繋がっている」は人間と動植物や環境がさまざまなかたちで連関していることを示す。ハンス・ハーケは社会や経済のシステムと生態系とをつなぐ視点で撮影された記録写真を展示。ニナ・カネルは貝殻がセメントなどの建材に変換されるプロセスを鑑賞者に追体験させる。

2章の「土に還る」は1950~80年代の日本に焦点を当てるもの。この頃の日本では高度経済成長の裏で公害など深刻な環境問題が噴出していた。鯉江良二の作品は自身の顔が崩れて土に還るさまを表現している。中西夏之は日用品を卵型のアクリル樹脂に詰め込んだ。触れることができない日用品は、日常に潜む不穏さをあぶり出す。

3章は急激な産業社会化や科学技術の発達をアーティストがどう捉えたのかを見る。養殖真珠をテーマにしたモニラ・アルカディリの作品は自然の生態系を操作しようとする人間の欲望を示唆するもの。保良雄は数億年もかけて形成された大理石と、ゴミを溶解したスラグを並置、異なる時間軸を見せる。

展覧会の最後は未来に向けての提言だ。82年、アグネス・デネスはニューヨークに麦畑を出現させ、開拓への疑問を表明した。西條茜の作品は複数の人が演奏できる楽器のような陶器。自然と人間、人間同士の関係性を問い直す。

現代アートは効率主義、経済第一といった既存の価値観とは違う価値体系でつくられる。アーティストの思いがけない提案から思考実験が始まる、そんな醍醐味が味わえる。

『森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために』

開催期間:~2024/3/31
会場:森美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~22時( 火曜は17時まで。24/1/2、3/19は22時まで)※入場は閉館の30分前まで
定休日:無休
料金:一般¥2,000
www.mori.art.museum

※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。