「面白さ」を追求し、第一線で走り続ける

  • 撮影:興村憲彦
  • 文:上田智子
  • スタイリング:チヨ

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2023年は宮藤自身が「供給過多」と口にするほど、数多くの脚本作品が公開された。8月に配信開始した『季節のない街』は、20歳の時から「いつか作品にしたい」と願っていた創作の原点。6月に配信された『離婚しようよ』は、TBSでタッグを組む磯山晶プロデューサーとの作品で、大石静との共同脚本で話題に。映画も『1秒先の彼』『ゆとりですがなにか インターナショナル』が公開され、過去作「池袋ウエストゲートパーク」の配信と、「あまちゃん」再放送で新たな視聴者をも熱狂させた。ラジオ「宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど」も絶好調だ。20年以上第一線で活躍し、いまも面白さを追求し続けている。

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宮藤官九郎 脚本家
1970年、宮城県生まれ。91年より大人計画に参加。話題作の脚本を数多く手がけ、監督、俳優、ミュージシャンとしても活躍。脚本を担当するTBS金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」が2024年1月からスタート。 帽子制作 /SHIRAISHI D STUDIO

Pen最新号は『クリエイター・アワード2023』。私たちの心をゆさぶる作品を生み出した彼らが、いま考えていること、見ている景色とは? 第一線で活躍する彼らの素顔と背景に迫りながら、輝き続けるクリエイションに敬意を表し、たたえたい。

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『季節のない街』に落とし込んだ、30年前に抱いた〝初期衝動〟

多くの作品を世に送り出した2023年だったが、宮藤官九郎にとって、この1年を振り返った時に思い出す作品というなら、『季節のない街』をおいて他にないという。企画・監督・脚本を務めた同作品は、宮藤が20歳の時に山本周五郎の原作と出合い、「いつか自分の手で監督したい」と30年間温めていた作品だ。

「放送作家になりたくて東京に出てきたのに、なにもアクションしてないなと漫然と焦っていて。そんな時、大阪の西成で暴動があって、突発的に見に行ったんです。その時に読んでいたのが『季節のない街』。日雇い労働者の人たちが暴れている様子と、原作の世界がリンクして『このエネルギーはすごい。自分もなにかやらないと』って、突き動かされるように大人計画に入りました」

12年前の〝ナニ〟で被災した人々が暮らす仮設住宅を舞台にした、群像劇。制作中はかつての初期衝動も甦ったという。

「(同じ原作の)黒澤明の映画『どですかでん』も大好きなので、そこから離れて自分の作品にするために、映画では割愛されている『親おもい』と『半助と猫』のエピソードを入れ、 外からやってきた〝この町を知らない人〟である半助(池松壮亮)の目線で物語を進めるようにしました。いちばん変えたのはラスト。原作と映画は、住人同士の関わりがほとんどなく、点描で見せていく描き方をしていて。でも、僕は1話で、〝六ちゃん(濱田岳/見えない電車を毎日運行するキャラクター)〟のことを実は住人が見守っていた、というストーリーにした。原作では妖精のように描かれている六ちゃんが、住人たちと密に関わる描写にしたからには、なんらかの決着をつけなきゃいけないなと思って。最終的に、僕がかつて見た西成の暴動―やり場のない怒りをぶつけるおじさんたちのことを思い出し、みんなで大暴れするというラストにしました。僕が最初に感じたエネルギーを集約すれば、住人たちのエピソードをうまく落とし込めると思ったんです」

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同じく今年配信の『離婚しようよ』は、大石静との共同脚本でも大きな話題に。脚本はリレー形式で書き進めていった。

「せっかくなので、『ここは大石さんが書いたんだろうな、と思ったくだりが、実は俺だった』というのがいいなと思い、いつもと違う頑張り方で脚本を書きました」

自分とは違う脚本創作を間近に見て、いろいろな発見もあった。

「それぞれ得意なところが全然違って、面白かったです。大石さんに言わせると、僕のホンは勢いに乗って筆が走っているから、脚本の法則を無視して書いているように見えるそう。僕としては、『こういう印象で映像化してほしい』というつもりで、ト書きを削ったり、シーンが変わる前にセリフだけ先に走らせたりするんですけど、それが新しいと思ったみたいで。僕も、大石さんの書くセリフを見て、『なんでこんなになんでもない言葉を、意味をもって響かせることができるんだろう』と思いました。『男と女は五分と五分』など、すごく強くて、この言葉しかないよね、というセリフを書かれるから、『こういうの、思いつけたらいいよな』って」

連続ドラマのデビュー作「池袋ウエストゲートパーク」も今年配信がスタートし、新たに視聴した若い世代が熱狂した。マコト(長瀬智也)やキング(窪塚洋介)など、強烈な個性と魅力をもつキャラクターをつくり出す作家性は当時から変わらない。

「少年漫画を読んで育っているので、現実の役者さんたちに、漫画のキャラクターみたいに面白い人物を演じてほしかったんでしょうね。実在する地を舞台にしているので、ドラマを観た人が『池袋に行けば、こいつらがいるんじゃないか』という錯覚が起きたら面白いな、とも思っていて。それは『木更津キャッツアイ』や『あまちゃん』も同じで、いつもそういう気持ちでつくっているし、逆にいうとそういう風にしか書けないんだろうなと思います」

 

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同時進行で、いろんな仕事をするのが自分には合っている

10年前の脚本作「あまちゃん」も再放送され、連日SNSが盛り上がった。人気の理由を自身で分析すると?

「朝ドラというフォーマット自体に中毒性があると思うんです。毎日15分ずつ放送があって、生活習慣にもなりやすい。そのシステムを楽しまない手はないと思って、週の1日はなにも進まない回をつくったり、自分なりの面白さを追求しました。のんちゃんをはじめ、まだあまり知られてない子たちが毎朝頑張っている姿を見られるという、朝ドラの基本を守れたのも大きかったと思います」

宮藤がすごいのは、脚本家や監督として数々のヒット作を手がけるだけでなく、ラジオパーソナリティ、音楽業、舞台の演出など、常に多岐の仕事を抱えていること。

「ひとつのことだけを考えていられるタイプじゃないんです。長谷川和彦監督みたいに何十年も連合赤軍のことだけ考えるとか、無理(笑)。現場の助監督を見て『ゆとりですがなにか』が生まれるなど、いまやっている仕事が次の作品のアイデアにつながるので、同時進行でいろんな仕事をするのが自分に合っているみたいです」

20年以上脚本を書いているが、常に新しい価値観を取り入れて、宮藤流の傑作を生み出し続けている。今後についてはどう考えているのだろうか。

「体力的な部分では衰えていきますが、休んでエネルギーをためることができないんですよね。ずっと動いていないとだめ。『面白かったね』と言われるのがいちばんうれしいので、これからも書き続けていくと思います」

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